世界で最大7億5700万人が飢餓に直面する中、食料支援は喫緊の課題だ。認定NPO法人国連WFP協会(横浜市)は2011年以来、企業と連携し「レッドカップキャンペーン」を展開している。同キャンペーンは、WFP国連世界食糧計画(本部:伊ローマ)の学校給食支援につながる寄付付き商品企画だ。キャンペーンに参画しているTOHOシネマズ(東京・千代田)は、映画館で販売するポップコーンの売り上げの一部を寄付し、観客に広く周知することで飢餓問題の解決を後押しする。
「非日常的な楽しみを提供するエンタメ企業として、飢餓という重たい社会課題をどう伝え、その解決に貢献できるのか。映画館に足を運んでいただいたお客さまが飢餓に関心を持つ、最初のきっかけづくりにできないかと考えた」
TOHOシネマズの清水敦・営業本部・商品開発部長は 「レッドカップキャンペーン」に参加した経緯を語る。
レッドカップキャンペーンに参加した企業・団体は、商品やサービスの売り上げの一部を寄付し、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)の学校給食を支援することができる。学校給食支援は、国連WFPの中でも重要な活動だ。支援を受けた子どもたちは、栄養状態や健康状態の改善によって勉強に打ち込めるようになり、それは将来への希望につながる。
2011年のキャンペーン開始から23年までに累計90以上の企業・団体が参加し、寄付金は9億4000万円を超え、累計2800万人以上の子どもたちを支援した。名称の「レッドカップ」はアフリカのある支援現場で、赤い容器に給食を入れて提供していたことに由来する。
■ポップコーンで700万円を寄付
TOHOシネマズは23年3月から、レッドカップキャンペーンに参加。劇場で販売するポップコーンの売り上げの一部を寄付することで、24年2月までの1年間で700万円を超える寄付を行った。同社は国内を代表するエンタメ企業である東宝グループの1社として、全国に70を超えるシネマコンプレックスを展開する。
「これまでウクライナ戦争や能登半島地震など、スポットで募金活動を行ったことはあったが、1年という長期間での寄付活動は初の試みだった。反響は国内にとどまらず、海外からも『映画業界として世界的にもユニークな取り組み』という評価をいただいた」
こう手応えを語るのは、TOHOシネマズの木田直樹・取締役総務担当兼総務部長だ。初年度の成功を受け、TOHOシネマズはキャンペーンへの参加期間を25年2月まで延長した。
TOHOシネマズのレッドカップキャンペーンが好評をもって受け入れられた要因は、ポップコーンの活用にあった。ポップコーンは劇場の定番商品としてコンスタントに売れるため、継続的に安定した寄付金を集められる。TOHOシネマズは「塩味」「キャラメル味」のS、M、Lサイズなど7種類あるポップコーンをキャンペーン対象商品とした。
「パッケージを専用デザインに切り替え、裏側に国連WFPの紹介やキャンペーンの説明文を入れて、上映を待つ間に読んでいただけるようにした。上映前のスクリーンで告知映像も流した。ポップなデザインのキャラクターは『可愛い』と評判で、劇場にマッチした」(清水部長)
清水部長が語る「キャラクター」とは、赤いカップをモチーフにしたレッドカップキャンペーンのキャラクターの「レッドカップちゃん」を指す。もし飢餓の現場写真などを使ったら、非日常を楽しむ空間である劇場では受け入れられなかったかもしれない。
実際に「レッドカップちゃん」が入ったポップコーンのパッケージを撮影し、SNSに投稿するユーザーが多かった。国連WFP親善大使で俳優の杏さんも、自身のインスタグラムで紹介するなど、インフルエンサーを通して反響も広がった。
■映画の将来に社会貢献は必須
「レッドカップキャンペーンは、各参加企業に合った形でできるだけ無理なく続けていただくことを大切にしている。企業それぞれに個性や考え方があり、TOHOシネマズの柔らかくキャッチーな打ち出し方と、本キャンペーンが上手く噛み合ったと感じている」
国連WFP協会の青木創・事務局長は、こう振り返る。
24年11月現在、レッドカップキャンペーンには食品、雑貨、ファッション、小売など70社・団体が参加し、それぞれの業態に合わせた支援に取り組んでいる。
全国のTOHOシネマズの劇場に足を運ぶ観客数は4000万人(23年度前期)を超え、多くの人々がキャンペーンの情報を目にした。
「劇場スタッフを含む従業員もキャンペーンを好意的にとらえており、社内のエンゲージメント向上にもつながった。東宝グループはサステナビリティの基本方針の一つに『人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します』を掲げており、そこへの貢献も果たせたと思う。主力商品である映画を通じて発信する中で、従業員、お客さま、社会の『三方よし』を実現できた」(木田取締役)
TOHOシネマズがレッドカップキャンペーンに取り組むのには、持続可能な社会に貢献すると同時に、映画産業自体を持続可能にするという狙いもある。
「現在は授業でSDGs(持続可能な開発目標)を教える学校も多く、子どもたちはサステナビリティに関心を持つのが当たり前になっている」
「子どもは『将来の大切なお客さま』であり、商品やサービスを選ぶ際にもサステナビリティへの取り組みを判断材料にするだろう。こうした次世代の要請に応えることが、企業活動を持続可能なものにすると考えている」。木田取締役は、こう将来を見据える。
TOHOシネマズはレッドカップキャンペーン以外にも、認定NPO法人国連UNHCR協会(東京・港)が主催する「難民映画祭」に毎年参加したり、子ども食堂に通う家族を映画に招待したりするなど、さまざまな社会貢献活動を展開している。
木田取締役は、「いろいろなエンタメがある現在、社会的な意義があることは『映画』という選択肢を選んでもらう動機付けになる。日常から切り離された空間で、ポップコーンを片手に好きな作品を楽しむという体験は、映画館でしかできない」と語る。
「そこにサステナビリティという価値をプラスできた意義は大きい。東宝グループは2032年に創立100周年を迎えるが、これからも映画館だからこそできることを追求していきたい」と意気込みを語った。
■レッドカップキャンペーンに参加しませんか
「レッドカップキャンペーン」は、企業がレッドカップキャンペーンマークを付けて寄付付き商品を販売し、売り上げの一部を学校給食支援に寄付する取り組みです。お店で売っている食品や雑貨、レストランのメニューなど、さまざまな商品が展開されています。
国連WFP 協会は現在、参加企業・団体を受け付けています。