記事のポイント
- 「戦後80年」を機に戦争や平和をテーマとした映画が注目を集めている
- ボスニア紛争やガザのドキュメンタリーなどがこの秋公開・配信中だ
- 反戦漫画「はだしのゲン」を題材にしたドキュメンタリーも見逃せない
「戦後80年」を機に、戦争や平和をテーマとした映画が注目を集めている。この秋にはU2がボスニア紛争後サラエボで行ったライブの舞台裏を追ったものや、現地のジャーナリストの視点でガザ戦争を描いた作品が公開する。反戦漫画「はだしのゲン」を題材にしたドキュメンタリーも見逃せない。(エシカルライター=宮野かがり)
原爆被爆者である中沢哲治さんが、自身の経験を元に描いた漫画「はだしのゲン」。この反戦漫画を題材としたドキュメンタリー映画「はだしのゲンはまだ怒っている」が11月14日から広島で、11月15日から東京で公開する。

数々の賞を授賞したBS12スペシャル「『はだしのゲン』の熱伝導~原爆漫画を伝える人々~」を映画化したものだ。
「はだしのゲン」を伝えるために尽力した人や被爆者など込山正徳監督が話を聞いた10人以上のエピソードを紹介し、「はだしのゲン」の誕生から現在までの輪郭を浮かび上がらせていくストーリーだ。
「はだしのゲン」の主な場面の紹介が織り交ぜられていることで、漫画を読んだことがない人でも「原爆投下」の経緯についての理解が深まる内容となっている。
加えて、近年広島市の平和教材からの削除や学校図書館における観覧制限の動きなど「はだしのゲンを批判する人たちの論理」も盛り込むなど多角的な視点を取り入れたことがポイントであると込山監督は語った。
2025年1月時点で世界では未だ1万2241もの核兵器が保有されており、その脅威も高まっている。一方、国内では戦争や原爆体験を語り継ぐ人が減っている。世界では第二次世界大戦後で戦争や紛争が最多レベルに達している今、ゲンのメッセージは未だ色褪せず、対話を生む。
■U2「サラエボ公演」の舞台裏が映画に
2025 年9⽉26⽇から東京で公開が始まった「キス・ザ・フューチャー」。同映画は、約30年前のボスニア紛争下のサラエボを舞台としたもので、音楽の力から平和を訴える作品だ。

U2がボスニア紛争終結後にサラエボでライブをするという約束を実現するまでを追ったストーリーで、U2のフロントマン・ボノのメッセージや地下のディスコで踊り自由を渇望する若者やライブ実現に尽力した人々の力強さが見どころだ。
外国人や移民排斥の機運が高まる日本の状況と民族対立により勃発したボスニア紛争は、重なる部分も多いはずだ。
■ガザの現状をスマフォで伝える
「記者が報ずべきは戦後ではなく戦時にある、真実は報道されるべきだ」——。ガザから届いたばかりのドキュメンタリー「ガザの眼」は、海外メディアの立ち入り制限が続く現地で活動するパレスチナ人記者らのジャーナリズム精神を捉えた1本だ。
ガザでは2023年10月以降247人の記者が命を落としており、今なお、海外メディアの立ち入り制限が続く。作中でも記者がスマートフォンを片手にインタビューを行う。医療チームと記者を標的とした攻撃を受け、救急車で退避する緊迫したシーンもある。
逆境の中でも工夫して遊ぶ子どもたちのしなやかな姿には目を見張る。爆撃音が鳴り響く街で倒壊した家屋を背に、現地の惨状を話す市民の声を伝えることができるのは彼らしかいないのだ。
時代や国を超えて戦争や反戦を訴える作品が多く登場するこの秋、今一度平和のあり方について再考してみてはいかがだろうか。