記事のポイント
- 2026年は「循環経済」が本格的に制度として動くステージに入る
- 26年8月にはEUの「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」が適用となる
- 廃棄物の後処理ではなく、「包装」を設計段階で経済行動に変えていく動きだ
2026年は「循環経済(サーキュラーエコノミー)」が本格的に制度として動くステージに入る。8月にはEUで「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」が適用となり、EU域内でビジネスをする企業は、日本企業でも対象となる。PPWRは、廃棄物の後処理ではなく、「包装」を設計段階で経済行動に変えていくための制度化だ。「循環経済」はリサイクル率の向上ではなく、経済の構造転換を目指すものだ。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

2026年は、循環経済が「理念」から「制度として動く段階」へ本格的に移行する節目の年になりそうです。
10月には生物多様性条約のCOP17が開催され、自然資本やネイチャーポジティブの議論が加速するでしょう。
けれど企業実務の観点でより直接的な影響を持つのは、今年8月から適用が始まるEUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)かもしれません。
■PPWRは「指令」から「規則」に格上げへ
EUでは実は1990年代から包装廃棄物に関する「指令(Directive)」が存在していました。しかし今回、各国の裁量を認める指令ではなく、加盟国にそのまま適用される「規則(Regulation)」へと格上げされるのです。
これは単なる制度の厳格化ではありません。EUが掲げるサーキュラーエコノミー、ひいては欧州グリーンディールを「理念ではなく実装可能な経済システム」に変換するためには、法的拘束力を持つ枠組みが不可欠だと判断した結果でしょう。
私はここにEUの戦略性があると思います。
EUはサーキュラーエコノミーを環境政策の一部ではなく、次世代経済モデルへの転換プロジェクトとして位置づけています。PPWRはその中核的な制度装置の一つです。
■強制力を持った「経済OSの書き換え」と捉えよ
PPWRの内容を見れば、その意図は明確です。
包装廃棄物の削減、持続可能性要件を満たす設計、包装の最小化や特定包装の禁止、再利用・リフィルの高い目標設定、統一ラベルの表示義務など、「廃棄物をどう処理するか」ではなく、「包装をどう設計し、どう使わせるか」に踏み込んでいます。
つまり、後処理ではなく、設計段階で経済行動を変えにいっているのです。これは、従来型の環境対策とは根本的に発想が異なります。
日本も2022年に「プラスチック資源循環促進法」を施行し、環境配慮設計の方向性を示しました。しかしそれは主に自主的取り組みやリサイクル促進を軸としたものであり、EUのように「基準を満たさなければ市場に出せない」という強制力を持つ制度とは性格が異なります。
日本の政策は依然として、回収率向上やリサイクル技術の高度化に重心があり、いわば溢れた汚水をどう処理するかという「End of pipe(出口対策)」の発想にとどまっているように見えます。
一方、PPWRは蛇口をしぼる発想です。製品設計の段階から無駄な包装を減らし、ワンウェイ構造を前提としない入口設計型。いわば、「Before pipe」の制度設計に踏み込んでいます。出口ではなく、最初の前提条件を書き換える。ここに日本とEUの決定的な違いがあります。
■「循環経済」はリサイクル率を上げることではない
ここで改めて考えるべきなのが、「サーキュラーエコノミーとは何か」ということです。
日本ではサーキュラーエコノミーがしばしば「リサイクル率を上げること」と同義で語られます。しかし本来のサーキュラーエコノミーとは、廃棄物処理の高度化ではありません。資源が循環し続けるよう、経済の構造そのものを設計し直すことです。
PPWRが目指しているのは、「回す技術」ではなく「回る構造」を制度として作ることです。
過剰包装を禁止し、再利用を義務化し、単純構造設計を促し、再生材市場を制度で立ち上げる。これらはすべて、サーキュラーエコノミーを市場メカニズムとして成立させるための設計であり、それを義務として実装しようとしている点に本質があります。
そして、経営の視点で最も重要なのはその意図です。
■EUでは「規制」がイノベーションを誘導する
なぜEUはここまで「厳しい規制」を導入するのでしょうか。それは経済の足を引っ張るためではありません。むしろ逆です。
EUは規制によって将来の市場条件を先に固定し、企業の投資リスクを下げているのです。
リユース前提の物流設計、単一素材化、新素材開発、モジュール型包装設計、デジタル製品パスポート対応など、企業は「この方向に投資すれば市場がある」と分かった状態でR&Dに踏み込めます。
つまり、規制がイノベーションのブレーキではなく、誘導レールとして機能するのです。
実際、欧州ではプラスチック以外の容器包装素材やリユース前提の流通モデルが次々に実装され始めています。ひたすらPETボトルの回収効率を上げたり、樹脂の原料転換に依存している日本のアプローチとは、明らかに方向性が異なります。
■EU規制対応は、「コスト」ではなく「経営戦略」そのもの
さらに日本企業にとって重要なのは、国内ルールがどうであれ、EU市場でビジネスを行う限りPPWR対応は不可避だという現実です。グローバル企業である以上、最も厳しい基準に合わせざるを得ず、事実上の世界標準はEUが決めることになります。いわゆる「ブリュッセル効果」です。
国内向けとEU向けで仕様を分ければ、設計・調達・製造の二重化が起き、コストと競争力の両方を失います。つまり、これは環境対応コストの話ではありません。将来の製造標準から外れるかどうかという経営戦略そのものの問題です。
規則によって市場全体が一気に変わるEUと、規制の弱い国内市場。どちらの方がイノベーションは進むのか。どちらが将来的な競争力を持つのか。答えは明らかでしょう。そして、こうしたことを考えれば、これはやはり単なる環境政策ではなく、経済戦略だとわかるでしょう。
サーキュラーエコノミーとは、リサイクル率を上げることではありません。資源の流れをどう設計するかという「経済OSの書き換え」です。
EUはそれを制度として実装し始めました。日本企業は、そして日本は、この変化を先送りするのか、それとも構造転換に踏み出すのかという、極めて重要な分岐点に立っています。
日本企業には、国内の動向に合わせるのではなく、EUの戦略を意識した対応を期待します。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)532(2026年2月2日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。



