母・娘・孫の女性3代が福岡で火を付けたコンポスト循環経済

連載: 「コンポストと循環経済に挑む女性たち」(1)

記事のポイント


  1. おしゃれなバッグ型「LFCコンポスト」が順調に事業を伸ばしている
  2. 仕掛けたのは、母娘が3世代で手がける福岡発スタートアップだ
  3. 成果を可視化し、2023年の8か月だけでも700トン超の生ごみを削減した

生ごみを、可燃ごみとして廃棄せず、微生物の力を借りながら堆肥(コンポスト)にして循環させる取り組みが広がっている。なかでも順調にユーザー数を獲得しているのが、都心に住む人でも気軽に取り組める、おしゃれなバッグ型「LFCコンポスト」だ。母娘3世代を中心にこの事業を展開する福岡発スタートアップは、ユーザーとともに、2023年1月から8月末だけでも700トン超の生ごみ削減を実現している。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

おしゃれなバッグ型「LFCコンポスト」(写真提供: ローカルフードサイクリング株式会社)

生ごみを、資源として分別回収する動きが世界で広がっている。ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)達成を目指す一部の地域・自治体に限らず、フランスでは今年1月から全国民に、生ごみや草木を資源として分別回収することを義務化した。

資源や廃棄物の回収方法は自治体によって異なる。そのような中、個人が、楽しくコンポストに取り組めるよう工夫を凝らした福岡発のスタートアップ、ローカルフードサイクリング社(LFC)の「LFCコンポスト」が広がりを見せている。

ユーザーは、バッグ型コンポストの中に、LFC社が独自開発した配合基材と、日々の生活で出る生ごみを投入して混ぜる。ファスナーでしっかり閉めることで外部からの虫の侵入を防ぐ一方、密閉されたコンポストの中では、微生物が生ごみを分解し、においをほとんど出すことなく堆肥にしていく。

コンポストに初めてチャレンジするユーザーも多い中で、日々の悩みや相談にもLINEを使って丁寧にフォローし、できあがった堆肥の使途についても、さまざまなオプションを用意する。丁寧なアフターフォローと、マンションのベランダでも取り組める気軽さから、累計会員数はすでに5万世帯に達した。

■コンポストの社会的インパクトを「見える化」

LFCによると、2023年1月から8月末の8か月間で、ユーザーとともに生み出したソーシャルインパクトは、生ごみの削減量が約745トン、二酸化炭素排出量に換算すると約366トンの排出削減だ。1トンの二酸化炭素は、スギ約71本が1年間に吸収できる量に相当する(出典:一般社団法人環境エネルギー事業協会)。

一定回数、配合基材を購入したユーザーには、LFCのたいら由以子代表から感謝と称賛・激励に満ちた手紙も届く。そこには、一人ひとりがこれまでどれだけ生ごみや二酸化炭素の排出を削減できたのか、環境へのインパクトの数値も記す。

■ユーザー同士がつながり、人材育成も図る

ユーザーは、SNSやオンラインでの講座などを通じて、同じ問題意識を持つ幅広い世代の仲間とつながる機会もある。

「レストランで残したエビフライのしっぽ、持ち帰ってコンポストに入れたくなりました」
「子どもに食べやすく切ってあげるような感じで、微生物が分解しやすいよう、野菜くずとかも小さく切って入れています」
「最近、寒くなってきたので、分解が遅くなってきた感じしませんか」
と、見知らぬ相手同士でも、コンポストや微生物の話に花が咲く。

またLFCは希望するユーザーを対象に、「LFCコンポストアンバサダー」、「LFCコンポストアドバイザー」の資格制度も用意する。研修や試験を通じてLFCコンポストの普及活動を担う体制も整える。

■やせた土がよみがえる

LFCのスタッフやアドバイザーが頼る、堆肥づくり・野菜づくりの知恵袋が、LFCの代表・たいら由以子氏の実母、波多野信子氏だ。「のぶばぁ」の愛称で慕われる波多野氏の堆肥づくりは、1960年代に遡る。2022年度には福岡県から波多野信子氏が個人として「循環型社会形成推進功労者知事表彰」を受賞した。

波多野氏は結婚後、新たに居を構えた福岡県内の地で野菜づくりを始めた。しかし、それが失敗の連続。土地がやせていたのだ。そこで、生ごみや食べ残しを土に埋め始めた。すると次第に、植物の育たなかった土地が豊かになり、野菜が育ち始めた。

「埋めた生ごみが効いていると実感した。その後、世の中にコンポスト容器が出たのですぐに飛びついたが、今度は虫と悪臭に悩まされた。そこから、私の堆肥づくりの研究がスタートした」と、波多野氏はオルタナの取材に答える。

■家族の余命宣告と食養生

手前から波多野信子さん、たいら由以子さん、平希井さん、平ひかりさん(写真提供: ローカルフードサイクリング株式会社)

母・のぶばぁのもとで育ったたいら由以子代表が活動を始めたのは、自身の父、波多野宏平氏が、肝臓がんを患ったことがきっかけだ。

たいら代表は振り返る。

「父は医師から余命3ヶ月と宣告された。繰り返される検査と日に日に容体が悪くなる父の様子にいたたまれず、家族会議の末、選択したのは自宅での『食養生』。大学時代に栄養学を学んだ私が食事担当となり、無農薬野菜を手に入れるために、生まれたばかりの長女を背負って、市内中を2時間かけて探し回った」

「そしてやっと手に入れた無農薬野菜は鮮度が落ちていて、しかも高価だった」

「食べさせないと翌日父が死んでしまうかもしれないと焦る中、安全な野菜が手に入らない世の中に疑問を抱き、怒りでいっぱいになった。なぜこんなに手に入らないのか。なぜこんな世の中になったのか」

「一方で食事を変えたことで父は日に日に肌が透き通るようにきれいになり、見違えるように元気になっていった。父は亡くなりましたが、2年も寿命が延びたんです」

「食べ物は、大切な人の存在そのものを左右する」という、頭の中ではわかっていたこの事実を目の前に突きつけられ、野菜探しと6時間がかりの食事作りを中心とするたいら代表の生活は、波多野宏平氏が息を引き取るまで続いた。

たいら代表は、言い切る。

「当時、環境問題は多くの人にとっては他人事。自然と分断された今の暮らしの中では仕方がないとあきらめてしまう。でも、半径2キロの生活圏内に閉じこめられていた当時の私は、地域の自然や出来事すべてが自分事だった。そしてあっという間の24時間は、とても楽しかった。貴重で、温かく、切ない時間だった」

■祖母から娘、そして孫娘へ、コンポストを紡ぐ

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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