[書評:シティ・ファーマー]都市農業に期待される多様な役割

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4年前の東日本大震災では流通が麻痺し、大都市のスーパーマーケットでは食料が軒並み不足した。利益を優先して工業化された「食料システム」に全面依存する都市の危うさが浮き彫りとなった形だ。一方、海外では都市で食料を生産する「都市農業」が試みられている。『シティ・ファーマー 世界の都市で始まる食料自給革命』(ジェニファー・コックラル=キング著、白井和宏訳、白水社刊、税込2592円)は、世界各地に都市農業の事例を取材した一冊だ。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

■都市農業は食糧危機を救うか

『シティ・ファーマー』表紙

『シティ・ファーマー』表紙

今や70億に達する世界の人口のうち、約半数が都市に住むといわれる。その食料を供給する大規模農業と世界的な流通網は、膨大なエネルギーと資源を消費することで初めて成り立つ。

こうした「食料システム」は、平時には順調に機能する。しかし今や化石燃料、水、そして農地はいずれも資源量が「頭打ち」の状態だ。石油危機や水不足、異常気象や災害などにより、ひとたび食料の生産と流通が滞れば、都市住民はたちまち食料の確保が脅かされる。英国の主要都市では、食料備蓄が3日分しかないという。

そこで著者が主張するのが、都市住民自身による食料生産だ。GM(遺伝子組み換え)技術をも駆使して大規模に、しかも資源を大量に消費する農業ではなく、「無秩序なほど多様に散在」し、かつ「消費者の手の届く場所で営まれる」農業が必要だ――と説くのである。

本書は欧米やキューバでの都市農業の取り組みを紹介。各地の事例を通じて、都市での農業が、単に食料を生産するだけでなく、雇用や教育、新たなビジネスの創出など、多様な役割を担いうることが示されている。自動車産業が衰退した米国のデトロイトでは、都市農業を通じた地域再建が試みられている。

都市農業だけで食料を自給できるわけではない。しかし、スーパーマーケットやコンビニなどに全ての食料を依存する、言うなれば「胃袋を誰かに握られている」ことが根本的に不安定な状態であることは、もはや多くの人々にとって明らかだろう。

そもそも都市農業を難しく考える必要はなく、実は私たちの手に届きやすい場所にある。ベランダに鉢を1個置き、野菜の苗を植えることから始めてもいいのだ。市民向けの貸し農園も増えてきた。

農を通じて自然の恵みを生活に取り入れることは、消費では得られない安心感をもたらす。その意味で本書は「半農半X」や「里山資本主義」にも通じると言える。

2015年3月27日(金)11:00

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