サステナビリティを価値創造につなげる海外企業

米デトロイトで開催されたSB国際会議は、4日間で2000名を超える参加者、300名を超える講演者が集まりました。数少ない日本人参加者の一人として、「サステナビリティに向けたイノベーションをビジネスを通じていかに生み出すか」をテーマに、最新トレンドを4日間追い続けました。(東嗣了=株式会社SYSTEMIC CHANGE代表取締役/コンサルタント/組織変革コーチ)

今、日本では「企業の社会的責任とは?」「利益が出た時点での社会貢献とは?」の前提共有を目的とした議論が真っ盛りです。しかし、米国でのSB国際会議は、いかにビジネスとしてサステナビリティを価値創造につなげていくのか――を目的とした具体的な議論と検証が中心でした。「Doing Right Things(企業として良いことをする)」という前提ステージをとっくに超えていることがわかります。

「Breaking Through Gridlock〜行き詰まりを突破する」と題したワークショップで

4日間を通して約30以上の講演や勉強会に参加した中、特に印象に残ったテーマをご紹介します。それが、「Breaking Through Gridlock〜行き詰まりを突破する」というワークショップ。講師はジェイソン・ジェイ氏とガブリエル・グラント氏の二人。ジェイソン氏はMIT(マサチューセッツ工科大学)でサステナビリティ研究、講師をしている方。私の隣席には、『ビッグピボット』(英治出版)の著者、アンドリュー・ウィンストン氏も参加者として座っていました。

このワークショップで得た価値は大きく2つ。「対話からイノベーションは生まれる」という確信。そして、「二分割思考で陥りがちな対立、妥協を超えるリーダーのあり方」を体験したことです。

サステナビリティをテーマとした変革を組織内・外で展開していく中、どうしても意見の相違や対立というものが生まれるものです。エネルギー対策、サステナブルな商品開発、サプライチェーンの見直しといった変革は、組織や働く人にとっては大きなチャレンジです。

特に米国では、トランプ大統領が気候変動に対して懐疑的な政策をとっていることもあり、企業内でも明らかに考え方が違う人との合意形成ができず、身動きが取れなくなってしまう事例も多いようです。4日間を通して政治的なメッセージもビジネスカンファレンスとしては珍しく多かったです。その結果、対立と妥協が横行し、組織としてイノベーションが極めて起きにくいのが現状です。

対立を超えるイメージ図

このワークショップでは、リーダーのあり方、対話のアプローチを変えていくだけで、関係性の質が向上し、妥協を超えたイノベーションを生み出すことを実践的に学びました。

では、具体的にどのように対話を進めていくのか。彼らの最初の切り口は、自分自身のあり方 (Being)、から全ての対話はスタートしているというメカニズムを理解すること。リーダーとして、対話の仕方 (Doing)、対話の結果や反応 (Having)に目を向けるのではなく、相手に対する敬意、本質 (Authenticity)に向き合うことでした。

また、自分自身を正当化して身動きがとれなくなる心理的なメカニズムや落とし穴についても解説。Bait(餌)と呼ばれる、無意識に自分自身を正当化してしまう感情の拠り所を自覚することで、自分の凝り固まった思考、会話が進まなくなる落とし穴から抜け出す方法を学びました。

最終的にはすぐに実践できるテンプレートを活用し、相手の意見に対する共感、自分の意見の背後の開示、そして建設的な対話を進めていくロールプレイなども体験することができました。

「一直線の空間(自分が正しいか相手が正しい)からは、抜け出すことは難しい」

二律背反する状況の中、お互いの妥協点をみつけていくアプローチでは決してイノベーションが生まれないというのが彼らの信念です。サステナビリティ変革を推進していく上で、業績vs. 環境負荷軽減、価格vs.オーガニック、といった、どっちを優先するかという議論が起こりがちです。

今回学んだ対話手法、リーダーシップのあり方を実践することで、一直線上での妥協点で落ち着くのでなく、第3の存在としての視点、新たな空間でのイノベーションが起こりうる可能性を強く感じました。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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