岩手・重茂漁協、海を守る使命と誇り

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岩手県沿岸部、複雑に入り組んだ海岸線が続く三陸海岸の中央部に、本州最東端の重茂(おもえ)半島がある。豊かな海の天然資源を、享受するだけではなく、自ら率先して守り続けてきた地域であり、東日本大震災後は様々な連携を通して新しい商品開発にも取り組んでいる。震災の翌年から毎年企画している「復興企画商品」。第7弾「重茂黄金焼うにプレミアムアイス」など商品開発の経緯と先人から受け継いできた地域の精神を聞いた。(一般社団法人RCF=荒井美穂子)

■漁協と住民が守る良質の天然資源

重茂漁協にある初代組合長西館善平氏の像。天恵戒驕の文字が刻まれている

重茂は天然資源が豊富な三陸地域の中でも、良質なアワビやウニが採れる地域として一目置かれる存在だ。その重茂の根底にあるのが「天恵戒驕(てんけいかいきょう)」、重茂漁業協同組合初代組合長西館善平氏の言葉だ。「天の恵みに感謝し、驕ることを戒め不慮に備えよ」この言葉のもと、重茂漁協は、豊かな天然資源を守り次世代に受け継ぐための様々な取り組みを行ってきた。

日本国内でも近年の不漁等をきっかけに「持続可能な漁業」への関心が高まってきているが、西館氏は約70年前にして既に、天然資源は有限であり、採取は控えめに、不足するところは自らの研鑽で新たな資源を補う、という自然との共存共栄の精神をこの地で実践し、住民も「子孫に誇れる漁村を築こう」という想いでそれを今に引き継いでいる。

海の資源を取り過ぎない事と同時に重茂が取り組んできたのは「陸」からの資源保護だ。良質の海藻や魚介類が生育できる環境には森からのミネラルを豊富に含んだ水が必要だ。森林の伐採計画に対し、1984年には半島内にある十二神山の原生林を「遺伝子保存林」として永久に伐採しない協定を国と結ぶなどし、現在は半島の海岸線55kmをすべて「魚付き保安林」として指定、伐採を厳しく規制している。

また、漁協婦人部によって40年以上前から続いている合成洗剤を使わない運動や、住民や小学生による広葉樹の植樹、漁港・海岸の清掃活動、肥料・薬剤の不使用など、活動には漁業従事者のみではなく、女性や子供達など、重茂で暮らすたくさんの人々が加わっているのも他の地域に誇れる重茂の特徴だろう。

■重茂を襲った「青い」津波

2011年3月11日。東日本大震災の津波が重茂を襲った。

重茂半島は本州最東端にあり、外洋からの波がそのまま押し寄せた。重茂漁協でその時の写真を見せてもらった。驚いたのは、その津波の色が海そのままの鮮やかな青い色だったことだ。住民たちが長年かけて守ってきた海は、表面だけでなく海底までがきれいに守られていたことを示す貴重な写真だった。

漁協に所属する漁船814隻のうち798隻が流失。漁家400戸のうち約100戸が流出し、地域全体の死者・行方不明者は50名にものぼった。漁港や養殖施設、加工場などもほとんどが失われた。

厳しい状況でも、自然との共存共栄を目指してきた人々の漁業再開への動きは早かった。5月には他県から確保した70隻もの漁船で天然ワカメ漁をスタート。7月には定置網漁を再開するなど、漁協のリーダーシップと地域の相互扶助の精神が復興を支えた。

■自らの研鑽で新たな資源を

重茂漁協の精神と復興企画商品について語る後川次長

いち早く復興への歩みを始めた重茂に、外部からも様々な支援の手が差し伸べられた。その中で新たな「資源」を作るきっかけとなったのがキリン絆プロジェクトだった、と復興企画商品を次々に繰り出してきた重茂漁協業務部 後川次長は語る。

重茂のワカメや昆布、高級品のアワビやウニは品質もよく、人気もあるが、震災前と同じやり方を続けていくだけでは他地域や海外品との競争になる。品質の良さをアピールしながら、重茂ブランドをしっかり認知してもらうための、新しい提案や付加価値が必要だ。キリン絆プロジェクトは、6次化商品開発やマーケティングといったソフト面での支援をおこなっていたことが、「復興企画商品」開発を後押しした。

復興企画商品の第一弾となったのが、震災後の復活を真っ先に支えたのは重茂の新芽のワカメを厳選して作り上げた「早採りわかめ春いちばん」だ。

通常、ワカメは大きく育った3月が出荷のピークになる。漁業者は1~2月の間は、ワカメが大きく育つよう、適宜「間引き」をおこなう。この時期のワカメは小さいが、シャキシャキとした独特の食感がある。

また、生のワカメは茶色をしているが、湯に通すと鮮やかな緑色に変わる。これが美味しく食べられる期間は短く、1月上旬から2月中旬の約1ケ月間に限られる。

商品化では、これらの特徴を活かすことにこだわった。

例えば、ワカメは収穫後紫外線に当たらず新鮮なほど、湯通しした時、より鮮やかな緑に変化する。最も良い状態で食べて欲しい、という思いから、ワカメを暗いうちに収穫し、その日の夕方には首都圏の食卓に届くよう、漁の時間や物流も見直した。

トヨタの『カイゼン』指導も、復興へ向けて経営をサポートしている。震災を機に漁をやめてしまった漁業者もいるため、生産量は震災前に及ばない面もあるが、生産の効率化や利益率の向上により利益額は震災前と同じレベルかそれ以上まで回復していると後川次長は胸を張る。

■地域をつなぐ想い

3月7日、復興企画商品第7弾「重茂黄金焼うにプレミアムアイス」の発表会を兼ねた試食会が重茂漁協海洋冷食工場で行われた。同じ岩手県の沿岸北部にある野田村の塩を使い、洋野町の大野ミルク工房でつくったアイスに重茂の焼ウニを豪華にトッピングし、焼ウニの味を引き立たせる為に陸前高田の八木澤商店の醤油も入れた、まさに岩手県沿岸の総力を集めた商品だ。

支援してくれた人たちへの感謝と、重茂だけではなく、被災した地域が一つになって新しい未来を作ろうという想いが込められている。

新しいチャレンジを繰り返すことが、地域に人を呼び込む力になるとの期待もある。豊かな天然資源に恵まれた重茂半島でも、後継者不足が課題となっている。漁には熟練が必要だが、早採りわかめであれば新規参入でも一定の収穫が見込め、また、小さいうちに収穫することから、少人数で対応でき、体力的な負担も少ない。

漁協でも早採りわかめについては、買い取り額をあらかじめ高値に設定するなど漁業者を支援する体制を整えている。それまで商品にならなかった新芽の早採りワカメを収入源とすることで、若手や移住者などの新規参入や事業承継の障壁を下げ、地域を未来につなげて欲しいとの狙いだ。美しく豊かな海には守り手となる人間が必要なのだ。
 
世界三大漁場の一つである三陸沖をのぞむ本州最東端の地、重茂半島。美しい海と森を人が守りつないできた。SDGsを考える人たちにまず訪れてほしい地域だ。

◆いわて三陸復興のかけ橋「復興トピックス」

一般社団法人 RCF
2011年4月、震災復興のための調査を行う団体として発足。現在は復興事業の立案・関係者間の調整を担う「復興コーディネーター」集団として活動。代表理事は藤沢烈。活動例として、2015年度はいわて未来づくり機構を母体とする「いわて三陸 復興のかけ橋プロジェクト」を岩手県より受託し、岩手県内各地と県外企業・団体の復興支援マッチングを推進している。

2018年3月15日(木)9:07

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