全米就職ランキング1位のNPO、日本でも展開へ

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日本の就職先人気ランキング上位企業と言えば金融機関や商社がお決まりだが、米国のランキング一位はなんと、NPO(日本では特定非営利活動法人)だ。ユニバーサム社が今年4月に発表した米国就職先人気ランキング(主要345大学、調査56900人)によると、文系では教育支援NPO「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」が、グーグル、アップル、ウォルト・ディズニーらを抜いて1位になった。

TFAはニューヨーク市に本部を置く教育支援NPOで、今年4500人の定員に対して46000人もの応募があった。すでに日本でも事業展開をする準備が進んでいる。

TFAのミッションは、米国内の教育格差を解消し、すべての子どもたちに質の高い教育の機会を提供するため、公教育の支援をすることだ。教員免許の有無にかかわらず、大学卒業から2年間、一流大学の学部卒業生を国内各地の教育困難地域にある学校に常勤講師として赴任させる。

TFA創設者のウェンディ・コップ(43)氏はプリンストン大学出身。1989年に、このアイデアを卒業論文で取り上げたという。90年にTFAを設立し、翌91年には500人の教師を米国各地の学校に派遣した。

その後のTFAの活動は目覚しく、09年までに約300万人に上る子どもたちが授業を受けた。TFAの元教師が、別のNPOを立ち上げた例もある。貧困地区での大学進学をサポートするKIPP(キップ )もその一つだ。KIPPに通う学生の大学進学率は85%にも上るという。

TFAは日本でも展開することになりそうだ。ハーバード教育大学院修士課程に留学し、TFAに共感した松田悠介さん(27)らが今年9月、ラーニング・フォー・オール(LFA)を設立した。

まだTFAの公式支部ではないが、2012年4月に教員の2年間派遣モデルの実施を目指して準備を進めている。このプログラムがTFAから認定されれば、正式に「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」を名乗ることができる。

松田さんは東京都にある中高一貫校で体育教師をしていた。だが、その教育現場に疑問を持ち、いったんハーバード大学院に留学。そこでウェンディ・コップ氏と知り合った。

松田さんは「僕が中学校でいじめられていた時、支えてくれたのは一人の教師でした。すべての子どもたちに質の高い教育の機会を与えるために、社会的インパクトを与えられるような活動をしたい」と抱負を語っている。

サマープログラムの教員学生と活発に議論する松田悠介代表

LFAは今年8月下旬の5日間、大学生25名が八王子の中学生28名に学習支援を行う「サマープログラム2010」を行った。事前テストとプログラム実施後の平均点(中学1年生)を比較すると、数学が52点から64点、英語は67点から87点と飛躍的に上がった。

何よりも子どもたちの勉強に対する意識に変化があったという。始めは一分間も鉛筆を持てなかった子どもも集中力を切らさず授業に取り組むことができるようになった。中には、点数が50点もアップした生徒もいた。

このプログラムで教師として英語と数学を教えた韓国人のジョン・ウォンジンさん(20)は、「学校で先生に認められていないと感じる子どもは多い。学校や成績に関心を寄せない親も少なくない。そうすると、子どもたちはどうせ勉強しても仕方がないとあきらめてしまう」と話す。

個別授業では一人ひとりに丁寧に教える

LFAの授業を通じて同じ目線に立ち、向き合うことで少しずつ子どもたちの意識が変わってくるのを感じるという。ウォンジンさんは、早稲田大学商学部に通う大学2年生で、08年から日本へ留学している。大学卒業後は韓国で教育NPOを立ち上げたいと意気込みを語る。

米国公立校の運営費の一部は、地元自治体の税収で賄われる。そのため、貧困地区では教員や教材が不足しがちになり、公教育の質の低下が叫ばれている。

日本でも、近年は特に所得格差が教育格差を生み出しつつある。貧しい家庭は、子どもたちに塾や習い事などを通して、学力向上や勉強以外の目標を持たせることが難しい。だからこそ公教育の質が問われる。こうした「負のスパイラル」を少しでも解消するのがTFAやLFAの目標だ。

東京学芸大学大学院教育学研究科の成田喜一郎教授は、「教育問題は社会問題として認識されるべき。LFAの活動は、困難を抱える学校現場を直接支えると同時に、長期的には社会全体で教育問題を解決する人的支援の基盤づくりに寄与できるのではないか」と期待している。

(オルタナ編集部 吉田広子)

2010年9月30日(木)13:09

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