「ソーシャルインパクト」は小手先では測れない

■社会的インパクト・マネジメントとは

今回、氏が日本に来るのを準備するのと並行する形で、日本側では「社会的インパクト・マネジメント・フレームワーク」の作成を、ワーキンググループでの議論をもとに行なっていた。その結論として、フレームワークには、社会的インパクト評価イニシアチブとしての以下の立場を明らかにしている。

•「社会的インパクト志向原則」において、社会的インパクトの向上が何を意味するのかを明らかにしている。

•「社会的インパクト・マネジメント・フレームワーク」とは、「社会的インパクト志向原則」にのっとって、いかなる事業マネジメントをすれば社会的インパクトを向上させることができるかの大枠・指針を示すものである。

•「社会的インパクト・マネジメント」とは、社会的インパクト評価を事業運営プロセスに組み込み、「インパクト・マネジメント・サイクル」を回すことによって、事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報に基づいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向するマネジメントのことである。

•「社会的インパクト評価」とは、社会的インパクト・マネジメントを実践していくための評価。プログラム評価の考え方や手法を活用して、単一または複合的な事業・取り組みの社会的な効果や価値に関する情報を可視化するものである。

•社会的インパクト・マネジメントの実践には、目指す社会課題解決や社会価値創造の実現に向けた道筋、期間、資源を長期的な視野で明確にしようとすることが前提。もちろん、そのような前提をもたない事業・取り組みであっても、社会にとって意義ある活動は数多くあり、社会的インパクト・マネジメントは決して万能ではない。

詳しくは、フレームワーク自体と、2018年7月末をメドに公表予定の「社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン」を参照してほしい。ガルガーニ氏の「ちょっと待ちなさい」に呼応するように、社会的インパクト評価の運用に向けての基礎理解を提示するものとなっている。

■インパクト・マネジメント・サイクルとPDCA

Social Impact Day終了直後、出席していた知人から「PDCAを回すことと何が違うのか」という素朴な疑問が寄せられた。確かに、サイクルを回すのだから、これまでPDCAを実践している事業者から見れば、「何が違うのだろう」という疑問も出て当然かもしれない。

端的に言えば、土俵が違うのである。志向原則で表現されているような「インパクト志向」をもつという出発点に立つことによって、サイクルの回し方ががらりと変わってくる。これは、NPO/NGO、ソーシャルビジネス、CSRの取り組み、トリプル・ボトム・ラインを意識した企業活動全般、公的セクターの事業など、あらゆる事業体で活用できる考え方である。そして、そこでは「評価」の景色ががらりと変わってくる。事業者や事業から直接の影響を受ける対象者にとっての、使える評価、役に立つ評価が立ち現れてこなければならないのだ。

■新しいパラダイムへ「3つの橋」が重要

筆者は、社会的インパクト・マネジメントは、ガルガーニ氏の説く「新しいパラダイム」への転換のための鍵概念になると思っている。社会的価値の多様性を認め、同時にソーシャルインパクトの共通言語を作り上げて行く。簡単・単純な作業ではない(だからこそパラダイム・シフトなのだが)。

ガルガーニ氏は、新しいパラダイムに到達するには「3つの橋」が重要という持論を披露した。一つ目は、すでに確立されている「金融」の世界の言語を駆使すること、二つ目は、これもかなり精緻な仕組みができている「評価」の世界の言語を最大限活用すること、そして三つ目は、まだまだ関わる人も資源も足りない「発明・発見」の橋を作り上げること。

複雑化・深刻化する社会課題、そして社会課題として認知すらされていない潜在的諸課題。これらと効果的に向き合うには、これまでのセクターの垣根(公的、民間営利、民間非営利)を超えた取り組みが求められている。

しかしながら、今日、私たちはそういった取り組みのための共通の言語をもっていない。その現実を直視することから始めよう。焦らず、けれど急いでソーシャルインパクトの橋を一緒につくって行こう。ガルガーニ氏が私たちに残していったメッセージを、しっかり受け止めていきたい。

注釈:(1) Social Impact Day 2018(主催:社会的インパクト評価イニシアチブ、社会的投資推進財団/後援:笹川平和財団/助成:日本財団)。当日の議論の様子は、社会的インパクト評価イニシアチブのサイトに掲載予定。
http://www.impactmeasurement.jp/

(2) 社会的インパクト・マネジメント・フレームワーク(Ver. 1)
http://www.impactmeasurement.jp/wp/wp-content/themes/impact/pdf/Social%20Impact%20Management%20Framework_ver1.pdf

◆今田克司(いまた かつじ)
(一財)CSOネットワーク代表理事、(特活)日本NPOセンター副代表理事、(一社)SDGs市民社会ネットワーク業務執行理事。米国(6年半)、南アフリカ(5年半)含め、国内外の市民社会強化の分野でNPOマネジメント歴24年。2015年度内閣府社会的インパクト評価ワーキンググループ委員、社会的インパクト評価イニシアチブ共同事務局メンバー、日本評価学会研修委員会メンバーなど、NPOに評価文化を根づかせる試みでも牽引役を果たしている。

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一般財団法人CSOネットワーク
1999年に設立、2011年一般財団法人化。「公正で持続可能な社会に向けた価値ある取り組みを見出し、マルチステークホルダーの参画による社会課題解決を促す」をミッションとし、社会的責任・サステナビリティ推進事業、地域主体の持続可能な社会づくり、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」推進、社会的インパクト・マネジメント事業(インパクト・マネジメント・ラボ)など、幅広い取り組みを行っています。 ウェブサイト:http://www.csonj.org/about/  フェイスブック:https://www.facebook.com/csonj

2018年7月4日(水)14:02

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