針広混交林の長短を考える

「森を守れ」が森を殺す。

日本の林業は基本的に一斉造林、一斉伐採(皆伐)の繰り返しを行っている。それがもっとも効率的とされるからだ。とくに明治以降、当時のドイツ林業の理論を取り入れて全国に拡散した。

ところが肝心のドイツなどでは、今やこうした林業をやっていない。1990年前後に大きく林政を転換して、可能な限り針葉樹と広葉樹が混ざった天然林に近い針広混交林の森にするようになった。

そして収穫は択伐(抜き伐り)で行うよう切り換えた。つまり日本林業は、時流から外れているのである。

ただ日本でも、少数の地域および篤林家の森で針広混交林づくりが行われている。そこで針広混交林の長所と短所について考えてみた。

まず長所は、天然林に近いのだから生物多様性が高いこと。樹木だけでなくさまざまな種類の草も生えるし、それにともなって昆虫や鳥獣も増えるからだ。

次に樹冠や根系の広がり、樹齢・樹高などの違うさまざまな木々が混ざることで、土壌の緊縛や風の当たり方などが分散されるため災害に強くなる。

風水害だけでなく、同じ樹種が近接していないため病虫害も拡散しにくい。

そして一斉林よりも落ち着いた、美しい景観になるという意見もある。これは主観に左右されるが、森林散策などで天然林の方が癒されると喜ばれる

※この続きは、オルタナ53号(全国書店で発売中)掲載の『「森を守れ」が森を殺す』でご覧ください。

atsuotanaka

田中 淳夫(森林ジャーナリスト)

森林ジャーナリスト。1959年生まれ。主に森林・林業・山村をテーマに執筆活動を続ける。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)『鹿と日本人』(築地書館)『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(ともに新泉社)『獣害列島』(イースト新書)などがある。

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