バイオフィリアな空間

三浦 光仁
有限会社エムズシステム 代表
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バイオフィリアな空間

私たちの生活環境や、活動空間が整えられ、進化(?)すればするほど、私たちは自然をより近くに感じたいと思うのは当然のことなのでしょう。

今日のIT時代をけん引する代表的な企業はみなこぞってオフィスに自然を取り入れることに躍起になっているようです。GAFAと呼ばれる4つの大企業(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)も等しくその傾向にあり、デジタルな方向への振り幅が大きければ大きいほど、ナチュラルなものへの揺り戻しが起きるというバランスが働いているようです。

アマゾンの新しいオフィスはまるでその名の通り巨大なジャングルドームのように緑濃い植物に溢れています。

このようになるべく自然を取り入れて、人生の大半を過ごす場―職場―をより居心地よく、リラックスできる環境にすることが「働きやすさ」や「創造性の発揮」に直結するという考え方が注目されています。

バイオフィリア(命あるものに向かう精神的・身体的傾向)という概念のもとにオフィスや施設作りが活発化しています。ところが、それを感知するヒトの五感(外界からの情報を取り入れるセンサー)への偏重が著しく、バランスを欠いている状況です。

「目に見えるもの」と「目に見えないもの」との区別が大き過ぎるのだと思います。

そもそも人のセンサー(視覚、触覚、聴覚)は、周波数帯域別に受容しているということを忘れがちではないでしょうか。

あるエネルギーの振動の周波数が低い時には「音」として知覚され、その周波数が高まると、(例えば、ラジオの中波、短波の文字が示すように)音は超短波から遠赤外線にかわり、「熱」として知覚されます。

そして(文字通り)赤外線がさらに細かく振動すると赤という「色」として受け止めます。色は分光スペクトルの順に周波数の低い赤から黄、緑、青、そして最も周波数の高い紫と並び、紫がさらに細かく振動すると目に見えなくなり、紫外線となります。

聴覚、触覚、視覚はこのように連動(というより分担)しているのです。

光―(色・デザイン)―視覚。
熱―(室温・湿度・肌ざわり)―触覚。

これらの要素は、例えばオフィスを作り上げる際に、かなりのレベルまで吟味されていますが、音―聴覚についてはあまり深く考えられているとは思われません。

自然をより良く取り入れるのならば、人を包み込むような自然な音を提供したいはずです。残念ながら音―聴覚に関しては、音の「聞こえ方」「包まれ方」ではなく、音楽のジャンルをどうするかという、目的のズレが生じているようです。

オフィスや店舗に予め設置されている音響システムはもともと緊急告知用で、警告音を流すものです。その音響システムにそのままクラシックやジャズを流してBGM代わりにしているので、バイオフィリアとは程遠い環境、空間になっています。

ただ、これはオフィスに限らず、私たちが当たり前に行っている行為とも言えます。

まさにパソコンで動画を視聴していることとそっくりです。パソコンにはもともと音声を聞く機能は求められておらず、内蔵スピーカーの役割は警告音や起動音を鳴らすだけのものでした。

ところがコンテンツのバリエーションが爆発的に増大し、「動画」と呼んでいるものの、その実、それはテレビ番組や映画やコンサート・ライブそのものですので、必ず音声が伴っています。そしてほとんどの利用者は警告音用の内蔵スピーカーでそれらを視聴しています。緊急放送用のスピーカーで、音楽BGMを流し続けている店舗やオフィスと全く同じことが起こっているのです。

このように音の「聞こえ方」「包まれ方」に関する配慮が蔑ろにされたままでした。

バイオフィリアの本来の意味、―命あるものに向かう精神的・身体的傾向―を、人生の大半をすごすオフィスや施設を作る際のコンセプトにするならば、目に見えるものだけに注力するのではなく、(星の王子様でも言われているように)目に見えないものこそ大切であると認識すべきなのだと思います。

そろそろ音のエア・コンディショナーが必要な世の中になってきたということでしょうか。

三浦 光仁
有限会社エムズシステム 代表
1980年伊勢丹入社。1987年より6年間、パリ駐在所勤務。ヨーロッパ30か国担当。1999年退社。2000年エムズシステム設立。2004年初号機スピーカーMS1001を発売。以来、世界最驚(最響)の音響メーカーを目指す。日本各地で「演奏家のいない演奏会」を開催。空間そのものが居心地良く、リラックスできる環境に変化させる、音によるライフスタイル革命を実践中。

2018年12月31日(月)15:52

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