高校生の「森の聞き書き」10周年

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3月5日に公開された映画『森聞き』は、東京を皮切りに全国で上映予定

山村の知恵を次世代に伝える「森の聞き書き甲子園」が、2011年度に10周年を迎える。高校生が森の名人の話を聞いて書き残す事業である。参加者からは、林業に就く若者や山村再生のために活躍する人材が生まれている。

「森の聞き書き甲子園」は02年に林野庁と文部科学省の主催で始まった。以来、甲子園という名の通り、全国の高校生を対象に毎年開催されている。日本の山で脈々と受け継がれてきた生業(なりわい)は、林業の衰退や山村の過疎化・高齢化とともに急速に失われつつある。その知恵を次世代につなぐ同事業には、例年20近い企業・団体が協賛や後援という形で協力している。

この事業の特徴は、じっくりと言葉を聞き取り文字にする「聞き書き」という手法にある。参加する100人の高校生は、まず4日間の研修で作家の塩野米松氏から聞き書きの方法を学ぶ。それから単独で、紹介された「森の名手・名人」に会いに行く。2回以上の取材を通して名人の言葉に耳を傾け、レコーダーに残した音声をもとに聞き書きをする。

森の名手・名人は、社団法人国土緑化推進機構が推薦を募り、毎年100人を選出する。マタギ、樵(きこり)・そま師、鷹匠(たかじょう)、木地師(きじし)、漆掻き(うるしかき)、指物師(さしものし)など、山村に伝承されてきた技術の達人の多くは、高校生の祖父母世代だ。

高校生は、実際に山に入ったり仕事を手伝ったりしながら、初対面の名人と交流を深めていく。07年度に参加した稲本朱珠(すず)さんは、兵庫県で炭焼きをする今西勝さんの話を聞き書きした。

稲本さんは「録音した今西さんの言葉を繰り返し聞いていたら、あるとき急に、山と人との深い関係がストンと理解できた。それまでは表面的な知識でしかなかった『里山の大切さ』を実感し、人に伝えたくなった」と高校1年生だった参加当時を振り返る。

大学生になった稲本さんは、社会学を学びながら、NPO法人「共存の森ネットワーク」のメンバーとして、過疎集落の活性化などに取り組んでいる。里山整備や棚田保全をする同NPOは、第1回の聞き書き甲子園に参加した「卒業生」が中心となって立ち上げた。今では同事業の主催団体の1つとなり、元参加者が運営側に回って活躍している。

若者のみずみずしい感性が名人と出会って変化していく様子は『森聞き』というドキュメンタリー映画にもなった。聞き書き甲子園の発起人の一人で同NPOの事務局長を務める吉野奈保子氏は「聞く行為はコミュニケーションの原点。地域づくりや森づくり、人づくりなど、さまざまな活動のために、聞き書きの輪を広げたい」と抱負を語る。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)2011年3月5日

2011年3月7日(月)10:12

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