原発撤退を可視化した独映画、11月公開

来日したフォルカー・ザッテル監督(10月6日、シアター・イメージフォーラムで)

ドイツでは、2022年の原発撤退に向けて着々と準備が進められている。しかし、莫大な費用と危険な作業を伴い大量の放射性廃棄物を出す「廃炉」は、言うほど簡単ではない。中立かつ冷静な目で、ドイツの原発の今を見つめたドキュメンタリー映画「アンダー・コントロール」(独2011年、ダゲレオ出版配給)が11月に公開される。

「放射線は目に見えない。原発の中身も我々には見えない。理解するためには可視化が必要だと思った」と、フォルカー・ザッテル監督は制作のきっかけを語る。

映画は、白い筋を描いて飛び交う放射線の映像から始まる。「自然界にある放射線を可視化する実験装置を科学館で撮影した」。音楽の代わりに警報が鳴り続けるエンドロールには、放射線をわざと当てたフィルムを挿入した。どちらも原子力を可視化する試みだ。

地下600mの廃棄物貯蔵庫に沈降するエレベーターの映像は、実際に監督が乗った時間だけ持続する。「恐ろしい長さだった。カメラで深く迫ることで観る人の内面に訴えたいと思い、敢えてカットしなかった」。同作は、原子力発電所の建物や原子炉の内部、徹底的に機械化された制御室などを芸術的な映像で切り取る。原発内の作業音や訓練の警報と、原発で働く人々や技術者が語る言葉以外に音はない。

制作に約3年をかけ、「儀式的で冷静過ぎる」緊急停止シミュレーションの場面や、直接触ることもできずゴミは深く埋めるしかない廃炉の厳しい現実も直視。建物の始末の先に横たわる数万年間の廃棄物管理の課題も示した。「原子力が描いた明るい未来の約束は果たされなかった」と監督はまとめる。

同作品は2011年2月のベルリン国際映画祭にも出品された。3月11日、トルコにいた監督は、インターネットで日本の惨事を知った。「技術者もお手上げの想像を超える事態に絶句した」と、その日の衝撃を語る。まさに「アンダー・コントロール(制御下)」から外れた福島原発は、ドイツの原発撤退を決定付けたという。「原発解体には20年以上かかる。ドイツは廃炉に既に巨額を投じている。自然エネルギーに力を入れてもいる。もう原発に戻ることはないだろう」と監督は言う。

レベル7の事故を経験しながら、ドイツのような決断には至っていない日本について意見を求めると、「原子炉で原子力の青い光をこの目で見たとき、魔力を感じた。人を誘惑する輝きだった」と打ち明け、「原子力をコントロールする夢や、今まで費やした大金への未練が、判断力を鈍らせるのでは」と語った。同作品は、11月12日からシアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)などで公開予定だ。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)

 

映画「アンダー・コントロール」公式サイト

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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