ドイツではバイオマスやコージェネを使った地域暖房が広がりつつある。ノルトライン=ヴェストファーレン州のブリュゲン村ではこのほど、森で自生する木を資源とする「エネルギーセンター」が稼動を始め、地域暖房の新しい試みとして注目されている。
「エネルギーセンター」は、村の中心の大型ボイラー施設と、5キロほど離れた営林署運営の作業施設の2つで構成されている。
営林署で木を伐採、粉砕して削片にした後、ボイラー施設にトラックで運び、乾燥後に燃焼させる。ボイラーへの削片供給、クリーニング、燃焼後の灰の排出などは全自動だ。
ここでできた温水は、6本のパイプを通じて村役場、消防署、小中学校などの公共施設に送られる。ボイラー容量は650キロワットで、村の施設の年間温水必要量の70%をカバーできるという。
建設中の多目的ホールも完成と同時にエネルギーセンターと直結され、このホールには需要ピーク時のバックアップ用にガスボイラーが1基設置される予定だ。
「シベリアのガスより村の木を使ったほうが良い」。ゲアハルト・ゴットヴァルト村長の素朴な思いが、エネルギーセンターでは実現した。
2006年に村が策定した「未来志向、安価、最適の資源を使い、二酸化炭素を削減する」というコンセプトに、木の削片はぴったりだった。
従来のガスによる熱供給に比べ、二酸化炭素排出量を年間70%近く削減できるだけでなく、燃焼後の灰ももちろん無害だ。
「ドイツの脱原発を草の根で支えるのは自治体。ブリュゲンはエネルギーセンターで重要な一歩を踏み出しました」と同氏は胸を張る。
エネルギーセンターの総工費は約150万ユーロ(約1億5000万円)で、3分の1は政府の景気支援策から助成を受けた。
施設のオープニングには州政府デュッセルドルフ管区のアンネ・リュトケス議長(緑の党)も駆けつけ、「自然エネルギー利用の好例。他の自治体が学ぶべきものがある」と述べている。
ドイツではバイオガスで電熱供給する「バイオエネルギー村」が全国に56カ所あるが、村の規模は数百人のところがほとんど。ブリュゲン村は人口約1万5千人と多いため、独自のコンセプトを必要としていた。
村所有の森は555ヘクタール(村全体の面積の48%)に達し、エネルギーセンターに必要とされる年間1600立方メートルの削片は長期的にも十分に産出できる。(独デュッセルドルフ=田中聖香)