「根拠なき楽観」が最大の敵、「官邸からみた原発事故の真実」刊行—田坂広志氏講演

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内閣官房参与として原発事故対策に取り組んだ著者が、緊急事態で直面した現実と極限状況での判断を語る

社会起業家として、また政策や社会改革の提言者として知られるシンクタンク・ソフィアバンク代表の田坂広志氏。菅直人政権下の内閣官房参与として東京電力福島第1原発事故の収束に昨年3月から約5カ月間取り組んだ。

この経験を基に「官邸から見た原発事故の真実−これからはじまる真の危機」(光文社新書)を刊行、このほど都内で出版記念講演会を行った。

■首都圏3000万人避難の回避は「運がよかった」

田坂氏は、「核燃料サイクルの環境安全性研究」で工学博士号を取った原子力工学の専門家。その経歴ゆえに首相直属の参与として、事故直後の11年3月29日から、ほぼ休みなく連日官邸に詰めた。

田坂氏が参与に就任した時点では「首都圏3000万人の避難」という最悪のシナリオに至る恐れもあった。その時に安定的に原子炉、また4号機に保管されていた使用済み核燃料を安定的に冷却することができなかった。

9月までに災害の拡大は避けられたものの、それは「関係者の努力ももちろんだが、運がよかったのです。事故そのもの、さらに原子力をめぐる根本的な問題は何も解決されていません」と田坂氏は強調した。

■事故は「原子力のパンドラの箱」を開けた−7つの疑問の浮上

田坂氏は事故によって「原子力のパンドラの箱」を開けたとみる。「原発の安全性」「使用済み核燃料の長期保管」「放射性廃棄物の長期保管」「核燃料サイクルの実現性」「環境中放射能の長期的影響」「社会的心理的な影響」「原子力発電のコスト」という、これまで放置された7つの疑問が再浮上し、全国民に突きつけられたという。国と電力事業者が真剣に取り組み、全国民とともに解決していかなければならないと指摘した。

田坂氏は昨年末の政府の「冷温停止状態」宣言で、「根拠のない楽観的空気」が広がることが「真の危機」と指摘する。政府がやるべきは、こうした「自己催眠」ではなく、原子力行政の反省、徹底改革と同時に、長期展望を示すことだと断じた。

「この震災で人生が変わったと思う方も多いでしょう。私もその一人です。アンフィニッュドビジネス(卒業していない課題)が追いかけてきた感がありました」と田坂氏は語った。

「原子力ムラ」にかつていた自分の行動を含めながら、過去への反省、そして未来への希望を胸に、日本のすべての人々と共に問題に向き合いたいと、講演を結んだ。

この本で示された田坂氏の真剣で誠実さを込めた問いは、私たち日本人一人ひとりが真剣に向き合わなければならない問題だろう。(オルタナ編集部=石井孝明)

 

2012年3月1日(木)11:03

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