書評)『福島からあなたへ』(武藤類子著)――福島から「忘れないでほしい」という訴え

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福島在住・武藤類子さんの「9.19さようなら原発5万人集会」でのスピーチで始まる本書は、「私たちは分断されまい」という強い意志があふれている。

チェルノブイリ原発事故と姉の白血病をきっかけに反原発運動を始めた武藤さんは、里山喫茶「燦(きらら)」を福島県田村市で2003年に開く。ソーラーパネルで店の照明や井戸のポンプをまかない、薪ストーブや湯たんぽで暖を取り、料理をする。山で集めたどんぐりを入れた「どんぐりカレー」が名物だ。

チェルノブイリ原発事故後、日本でも反原発運動が盛り上がったが、いつの間にか下火となった。そんなとき「自分の中の脱原発とは」と考えた答えが、自分の暮らしを見つめ直し、誰かの犠牲の上に立つ豊かさの対極にいたいということだった。

ところが、福島第一原発45キロ圏内にあったその生活は、原発事故で全て失われた。自然とともに生きていた人々を、原発事故が襲った。湯水のように電気を使う都会は一時の停電が過ぎれば、問題は解決したかのように振舞っている。

食べるか食べないか、除染か避難か、被災地の瓦礫処理を受け入れるか否か――。問題意識を持てば持つほど、さまざまな対立に遭遇し、疲れ切ってしまう人もいるだろう。「真実は隠される。国は国民を守らない」という絶望感。人々の分断は、事故を風化させ、原発を推進する権力を利することになるのではないか。

武藤さんの「私たちとつながってください」「忘れないでください」という言葉は、怒りと悲しみを忘れないと同時に、お互いへの信頼を失わず、つながり続けようと呼びかけている。(田口理穂)

『福島からあなたへ』(武藤類子著/大月書店)(税込1260円)

 

2012年4月13日(金)14:40

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