オバマの力量が見える地球環境問題―環境問題の深層

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日本経済新聞社編集委員 清水正巳

昨年末のコペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で2013年以降のいわゆるポスト京都議定書の枠組みづくりが不首尾に終わって以降、国際交渉の展望が開けていない。今年末の締約国会議での合意は難しいとされ、枠組みができるにしても来年以降との見方が強まっている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の不祥事もあって温暖化防止の勢いは鈍ったようにさえ見える。

COP15の不首尾は新興国、特に中国が排出抑制に抵抗したのが原因とされている。確かに合意案を練る首脳級会合には中国の温家宝首相が欠席し、最終的にコペンハーゲン合意も中国寄りといわれる一部の国の抵抗で「留意する」という表現で骨抜きにされてしまっている。その意味で合意形成に一歩距離を置いた中国がとがめられるのは当然のことである。しかし、それ以上に責任が問われるべきは米国のオバマ大統領である。

コペンハーゲン合意ではオバマ大統領がとりまとめに指導力を発揮しなかったわけではない。しかし、枠組みの骨格ができなかったのは、米国が排出削減目標を確約できなかったからである。大統領自身は削減目標を示していても、それは米国議会が法的に裏打ちしない限り、単なる口約束でしかない。

温室効果ガス、特にCO2(二酸化炭素)の排出量が世界で1、2位の米中両国は次期枠組みで先進国は拘束力ある排出削減目標、新興国は排出抑制を実現する行動計画で縛るという考え方で基本的に一致している。だが米国は京都議定書離脱という前科があるから中国も米議会が目標を裏打ちする法律を通さない限り信用しない。

米議会が温暖化防止関連法案を通したら、それに合うように次期枠組みをつくる。そうすれば米国で枠組みが批准されるはず。それが国際社会の共通認識である。米議会での法案審議の遅れはとりもなおさずオバマ大統領の指導力不足によるものであり、交渉の停滞はそこに原因がある。

オバマ政権の内政の優先順位は医療保険改革、金融規制改革、その次が温暖化防止とされてきた。だが医療保険改革でのもたつきが響き、今秋の議会の中間選挙前に温暖化防止関連法案の成立にケリをつけられるのか、かなり微妙だ。民主党は温暖化防止関連法案より大衆受けする移民法改正法案審議を優先する構えも見せ始めている。中間選挙後に与党、民主党が多数をとれず、オバマ政権の議会対策が難しくなると世界の枠組みづくりの行方は一層、混沌とする。

米議会が関連法案を通さず排出削減、つまり省エネに消極的だと原油価格は再び高騰する。中国やインドなど新興国のエネルギー需要は高まっており、価格上昇圧力は強い。中間選挙でオバマ政権が弱体化しても政権は温暖化防止関連法案成立に力を注がざるを得ないだろう。国際社会にとって理想はオバマ大統領が強力な指導力を発揮して早々に米国の国内法を成立させ次期枠組みを固めることだが、それはオバマの力量次第である。

日本国内には温暖化防止に消極的な産業界にCOP15の不首尾、IPCCの信用低下を喜ぶ不見識が見受けられる。しかし、地球温暖化の事実は消えないし、エネルギー情勢を考えれば世界の温暖化防止の潮流は揺らがない。国も企業も将来を見据えて排出削減を先取りしないと世界から取り残されるのは確実だ。

日本の産業界には自らのエネルギー効率が高いと慢心がある。だが1990年代以降、産業界のエネルギー効率はそれほど高まっていない。欧州各国はひたひたと日本に迫り、一部では追い抜いた。日本が競争力を失いたくなかったら温暖化防止を軽視、慢心するのではなく、各国より一歩先を行く気構えが必要だ。自己変革意識、挑戦心を失った社会、企業に明るい将来はない。

しみず・まさみ.日本経済新聞社編集委員。科学技術・地球環境ジャーナリスト。新聞社でワシントン特派員や科学雑誌編集長、論説委員などを歴任。

(オルタナ・プレミアム5号から転載)

2010年5月27日(木)9:00

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