12カ国で8万人の栄養改善――味の素「AINプログラム」

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栄養豊富な学校給食/フィリピン(提供:LOOB JAPAN)

途上国の貧困層にとって深刻な栄養問題を解決する。このミッションを実現しようと、味の素株式会社が創業90周年(1999年)を機に立ち上げたのが「AIN(味の素『食と健康』国際協力ネットワーク)プログラム」だ。国際協力NGOのプロジェクトに資金を拠出し、貧しい人たちが健康に暮らせるようサポートしている。

AINプログラムの出発点は、「グローバル健康貢献企業グループ」を目指す企業として、途上国の貧しい人の栄養状態を改善し、生活の質を向上させたいという強い思いだ。

背景には、半世紀以上にわたってアジアや南米でアミノ酸調味料を売ってきた味の素㈱が目にしてきた、先進国と途上国の間に横たわる栄養格差の問題がある。

世界の人口約70億人のうち、約20億人がビタミンやミネラルが不足する微量栄養素欠乏症を患い、約10億人が飢餓状態。その一方で、約5億人が肥満で、生活習慣病のリスクを抱えている。

AINプログラムの立ち上げメンバーの一人で、CSR部社会貢献担当の寺内奈津子氏は「ビタミンAが足りなければ視力が低下し、失明につながることもある。ヨウ素が不足すると甲状腺機能が低下する。栄養不良の人々をこのプログラムでカバーできれば」と意義を語る。

59のプロジェクトを支援 「自立発展性」を重要視

AINプログラムがこれまでに支援してきたプロジェクトは12カ国59件(実施中は13件)。助成総額は約2億円にも上る。

一つのプロジェクトの期間は1~3年で、助成額は年間150~200万円。受益者は合計で約8万人に達するという。いずれのプロジェクトも、一過性の取り組みではない。

味の素㈱は、支援する要件として、助成期間が終わった後も取り組みが続くかどうか、いわば「自立発展性」を最も重視している。このためプロジェクトには、スラムの母親に栄養のイロハを教えたり、給食の食材を調達できるよう学校菜園を作ったりするなど、教育や農業と絡めるものが多い。

プロジェクトの対象地は、味の素㈱が現地法人を構えるアジアと南米の国に限定している。事業を通じて食・栄養事情に精通している国のほうが、支援開始後もプロジェクトをフォローできるからだ。

AINプログラムの中でとりわけ大きな成果を残したのが、特定非営利活動法人AMDA社会開発機構(岡山市)がペルー・リマ近郊のスラムで手掛けた栄養・母子保健プロジェクトだ。

2006~11年度の合計6年間(2期)で総額約1千万円を助成した。目的は、地域住民の力で栄養・母子保健の課題を解決できるようにすること。住民の中から、地域のために無償で活動する保健ボランティアを募り、40人育成した。

彼女らが、各コミュニティーで母子への栄養教育・相談の担い手となった。対象地となったスラムでは、妊産婦と母親の約2割は12~19歳と若い。栄養バランスの良くない食事から、母子ともに栄養状態が悪かった。

味の素㈱CSR部社会貢献担当の寺内 奈津子氏。同社は審査の段階で、現地の ニーズと支援内容が合っているか、確認 するため現地に赴く

ところが6年のプロジェクト終了後は、子どもの53%の栄養状態が改善。栄養知識を高めた母親は94%、栄養知識を生活の中で活用している母親も84%と、意識改革も進んだ。

成功要因についてAMDA社会開発機構の田中一弘海外事業部長は「ペルー味の素社の従業員の方々が積極的にかかわって下さったことが、プロジェクトのキーパーソンである保健ボランティアらのモチベーションアップにつながった」と説明する。

ペルー味の素社の専門知識とネットワークを活用して、保健ボランティアらは実際、同社の工場を見学したり、有名な料理家から調理実習を受けたりした。

また、大学で教える同社社会貢献財団のアドバイザー(栄養専門家)の講座を受講し、修了証を受け取ったこともあった。このプロジェクトは2012年3月に終了した。だが保健ボランティアらはいまも個人ベースで活動を続けている。

従業員がペンキ塗り健康センターを整備

マレーシアの先住民オランアスリを支援するプロジェクトも、味の素㈱ならではという意味でユニークだ。経済発展から取り残されたオランアスリは栄養についての知識も乏しく、特に女性と子どもの健康状態は良くない。

この問題を解決するため、オランアスリの女性をプロモーターとして育成し、幼児の健康・栄養改善に取り組むマレーシア・プトラ大学のプロジェクトを支援している。

このプロジェクトでは、マレーシア味の素社の従業員らが自発的に、オランアスリのために空き家を「健康・栄養情報センター」として利用できるよう整備した。

本棚や飾り戸棚、カーテン、家財道具なども中古品を集め、センターに搬入。ペンキも塗った。寺内氏は「味の素はもともと『現場主義』の会社。人任せにしないというDNAがある。活動資金をNGOに渡すだけでなく、従業員も主体的にかかわるというのが味の素流の支援だ」と強調する。

将来は中東・アフリカへ 自社の企画を実施したい

AINプログラムは開始以来、栄養や保健、国際協力の専門家から成る外部アドバイザリーの助言を受け、審査基準を策定。一次審査は書類、二次審査は味の素㈱と各国法人の従業員による現地視察というプロセスを経て、助成先を決めている。

現在、応募資格があるのは日本のNGOだ。AINプログラムを導入して13 年、味の素㈱はさらに発展させたいと意欲的だ。アジアと南米にとどまらず、アフリカや中東地域への拡大を目指し、国連や国際NGOと目下、意見交換している。さらに、プロジェクトにもっとオリジナリティを持たせたいという。

栄養面のアドバイスや栄養レシピの提供、栄養分析機材の貸与など、プロジェクトのフォローアップ拡充はもちろん、将来的には自らがプロジェクトを企画し、それを遂行するためのパートナーを選ぶというやり方ができないか、検討している。

完成した健康 センターの前で(オランアスリの方々、プトラ大学のプロ ジェクトメンバー、マレーシア味の素社従業員)

栄養問題は国や地域によってさまざまだ。最近は途上国でも、都市部の子どもたちの間で肥満が増えてきた。幼児期に栄養不良だと生活習慣病にかかりやすい。

このように、栄養不足と過多が混在する状況を世界保健機関(WHO)は「栄養不良の二重の負荷」と呼ぶ。

こうした課題の解決には、情報から商品、従業員まで「栄養改善のアセット」を備える味の素㈱自らがプロジェクトを主導し、効果の高い支援をできる可能性は十分にある。

主なAIN支援実績【①プロジェクト ②実施団体(実施国)】
①家庭菜園の普及による栄養改善プロジェクト
②特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(カンボジア)

①慢性的栄養不良児のための栄養改善プロジェクト
②PRISMA(現地NGO /ペルー)

①エイズ児童の栄養欠乏症改善のための強化食開発
②サンパウロ大学(現地大学/ブラジル)

①障害者支援を中心とした栄養知識普及プロジェクト
②特定非営利活動法人 難民を助ける会(ミャンマー)

①「頭の栄養、体の栄養」移動寺子屋とランチサービス
②特定非営利活動法人 地球市民ACTかながわ(タイ)

2012年10月2日(火)17:20

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