記事のポイント
- 日本製鉄は、欧州の風力発電機大手向けにタワー用鋼材を供給する計画だ
- 日鉄が供給するのは、石炭由来の「グリーン鋼材」だ
- 海外のNGOは、石炭由来の「グリーン鋼材」はグリーンウォッシュだと批判する
日本製鉄は7月30日、デンマークの風力発電機大手ベスタス社と覚書を締結した。日鉄は今後、風車を支えるタワー向け鋼材を供給する。日鉄が供給するのは、石炭由来の「グリーン鋼材」だ。海外のNGOは、石炭由来の「グリーン鋼材」は、世界基準から乖離し、低排出あるいはゼロエミッションのような誤解を与えるとして批判の声を上げる。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

日本製鉄の石炭由来の「グリーン鋼材」を疑問視する
日鉄が供給する鋼材は「NSCarbolex(エヌエスカーボレックス)」シリーズだ。日本製鉄はこの鋼材を、日本鉄鋼連盟が提唱する、いわゆる「マスバランス方式」を適用して「グリーンスチール」だと謳う。
この方式では、鉄鋼メーカーが事業の一部で削減した排出量を証書として付加し、実際の排出削減とは関連のない鉄鋼製品に割り当てることができる。これにより、排出量の多い石炭を利用した鋼材を、あたかも低排出またはゼロエミッションとして販売し、グリーン・プレミアムを得ることが可能になる。
国際環境NGOマイティ・アースのマシュー・グロック重工業シニアディレクターは、「宣伝文句に隠れた真実は、『この鋼材は石炭で作られたが、製造元の企業は別の場所で無関係な排出削減に取り組んでいる』というものだ。それはグリーンウォッシュでしかない」と断じる。
この、いわゆる「マスバランス方式」で石炭を利用した鋼材を正当化しようとする動きに対し、世界の30のNGOは今年6月、グリーンウォッシュだとして反対声明を出した。
■ベスタスは欧州で再エネ由来のグリーン鋼材を調達する
「ベスタスは再生可能エネルギー分野の世界的リーダーであり、自社の風力タービン製造用にグリーン鋼材を調達することは鉄鋼業界の脱炭素化を後押しする可能性がある。そのためには、実際に低排出技術で生産された鋼材を選択する必要がある」と、国際環境NGOスティールウォッチのアジア担当、ロジャー・スミス氏はコメントする。
ベスタス社は欧州で、欧州アルセロール・ミタル社から再エネ由来のグリーン鋼材を調達して、自社の風力タービンを製造する。ミタル社のグリーン鋼材は、スクラップ鉄100%を鉄源とし、風力発電100%で稼働する電炉で生産したものだ。
「ベスタスには、帳簿上の削減にとどまる製品にお墨付きを与えるのではなく、実際に低排出な技術によって生産された鋼材を求めることで、鉄鋼メーカーの低排出技術への投資を後押しする役割を期待する。日本製鉄の『NSCarbolex』は、現状では石炭由来の鋼材でありグリーンとは言えない」(スミス氏)