日本で原子力発電ができなくなる「2030年問題」とは

記事のポイント


  1. 日本で2030年以降に原子力発電ができなくなる「2030年問題」が見えてきた
  2. 高レベル核廃棄物の最終処分地すら決まらない「トイレなきマンション」問題もある
  3. だが、もっと深刻なのは日米原子力協定に基づく「プルトニウムの蓄積問題」だ

総裁任期満了まで残り1カ月を切った岸田首相は8月27日の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、「残された任期の間に東日本における原子力発電の再稼働に筋道をつける」と前のめりの姿勢を見せた。しかし、その裏には2030年ごろには原発稼働ができなくなるという深刻な問題が見え隠れしている。(オルタナ編集部)

再稼働した原発の多くが運転停止になる可能性も

首相が掲げた再稼働の道筋は次の通りだ。設置許可変更許可をパスしている東京電力柏崎6、7号機、東北電力女川2号機においては、地元自治体の合意さえ得られれば再稼働可能な状態であり、首相みずから乗り出してこれを後押しする。

西日本の原発に関しては、すでに関西電力、九州電力、四国電力などが12基を再稼働させており、東日本の再稼働に筋道をつければ、全国レベルで原発の稼働が実現することになる。

しかし、再稼働した原発に待ち受けている使用済み核燃料「2030年問題」によりその多くが運転停止を余儀なくされる可能性があるのだ。この使用済み核燃料2030年問題とは何か。

使用済み核燃料プールが満杯になるまであと5年

原発が稼働することによって出てくる使用済み核燃料は、それぞれの発電所内にある「使用済み燃料貯蔵プール」に冷却しながら蓄積されている。しかし、これらが2030年ごろから次々に満杯となり、原子力発電所の運転継続ができなくなってしまう可能性があるのだ。

2024年1月19日、経済産業省の審議会である「使用済燃料対策推進協議会」が3年ぶりに開かれた。この会合において電気事業連合会が全国の原発のプールに蓄積する使用済燃料の状況を報告している。

その公開情報をもとに、すでに稼働中の12基と、再稼働を控える設置変更許可済みの4基について、満杯となるまでの年数を計算したものが図1である。2023年9月時点での各発電所の使用済燃料プールの貯蔵割合と、稼働継続して使用済み核燃料を出し続けた場合を示している。

2024年1月19日、経済産業省 使用済燃料対策推進協議会 電気事業連合会提出資料「使用済み燃料貯蔵対策の取組強化について」から算定。伊方、玄海発電所に想定されている乾式キャスク建造による保管容量は考慮していない。
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shiyozumi_nenryo/007.html

これを見ると、現時点でほとんどの原発において貯蔵率が8割を超えており、満杯になるまでの年数は概ね5年足らずしかないことが分かる。つまり、2030年代初旬には再稼働したほとんどの原発が使用済み核燃料の「糞詰まり」によって、運転停止を余儀なくされてしまうのだ。

六ケ所村の核燃料再処理工場を動かせない裏事情

なぜこのような状況が起こってしまうのだろうか。高レベル核廃棄物の最終処分地が決まっていない原発は以前から「トイレなきマンション」と呼ばれていた。しかし、この糞詰まりの理由は最終処分地の問題ではなく、核燃料再処理工場(青森県六ヶ所村)の稼働が大幅に遅れていることが原因だ。

再処理工場を建設している日本原燃は今年9月に完成させると公言してきたが、突如、8月29日に完成目標を2年ほど延期すると発表した。再処理工場はもともと1997年に完成予定だった。このような完成延期は今回で実に27回目で、当初予定より27年間も完成が先送りされ続けているのだ。

今回の延期理由は東日本大震災後につくられた新規制基準への審査対応に時間がかかるとしているが、完成予定の直前に突如2年も延期するという発表に不可解さが拭えない。

このような苦しまみれの発表をする裏には、核燃料サイクルの破綻によるプルトニウムの蓄積問題が関係している。再処理工場を動かしてしまうと、使用済燃料から毎年8トンのプルトニウムが抽出される。

プルトニウムを使う予定だった「もんじゅ」も頓挫

当初、核燃料サイクルとして高速増殖炉によりこれを利用する予定だった。しかし、もんじゅが頓挫した今、プルトニウムはMOX燃料として通常の原発で使う、いわゆる「プルサーマル」で消費するしかない。

日米原子力協定で日本が持てるプルトニウムは47トンまで

しかし、原発1基で消費できるプルトニウムは年間たった0.5トン程度しかなく、再処理工場から出てくる量を消化するには16基程度でのプルサーマル運転が必要だが、日本での実績は関西電力高浜発電所でしかない。

つまり、再処理工場が完成して稼働し始めると、プルトニウムの消費が全く追いつかず、どんどん蓄積し始めることになる。日本はすでにこれまで海外で再処理された47トンのプルトニウムを保有している。核爆弾に転用できるプルトニウムの保有は国際的に厳しい目で監視されており、これ以上増やすことはできない。

さらに、核保有国でない日本が世界で唯一、再処理事業を行うことができるのは、1968年に締結された日米原子力協定によって、「核燃料サイクルを前提としたプルトニウム抽出を許可」されているからである。

これ以上のプルトニウム蓄積は日米原子力協定違反に

核燃料サイクルが破綻した状態でプルトニウムを蓄積し続けることは、この協定における重大な違反にあたり、協定の解除に繋がりかねない。そうなると、そもそも日本の原子力発電事業の前提そのものが成立しなくなる恐れがあるのだ。

つまり、幾度となく繰り返される六ヶ所村の核燃料再処理施設の稼働延期は、プルトニウムの蓄積を回避するための時間稼ぎであり、最初から完成目標など絵に描いたモチに過ぎないという見方ができる。

また、行き場のない使用済み核燃料を中間貯蔵施設を作って蓄えたり、発電所敷地内に「乾式キャスク」と呼ばれる容器にいれて一時保存したりするという動きが活発化しているが、これも単なる時間稼ぎのための手段に過ぎない。

「原子力2030年問題」の存在を国民に説明しない日本政府

震災後、日本は原子力発電への依存は減らしていく方針であった。しかし、岸田首相が原子力の最大限活用に大きく舵を切った。経済産業省や電力業界は、脱炭素推進、AIの電力需要増大により原発は必須だと主張し、再稼働や運転期間の延長、さらには新増設まで筋道をつけようと躍起になっている。

しかし、この「原子力2030年問題」の存在については全く国民に説明がなされていない。このまま強引に原子力発電への依存を推し進めることは、原子力政策そのものの破綻を意味していると言っても過言ではない。

現在、政府は第7次エネルギー基本計画の策定に着手しており、原子力最大限活用の前提が組み込まれる見通しだ。しかし、将来の電力供給や脱炭素への対応は喫緊の課題であるにもかかわらず、原子力発電に頼ることは日本のエネルギー転換を遅らせるだけでなく、供給力の維持に寄与し難いものであることは明らかだ。

資源小国の日本にとって、再生可能エネルギーを中心とした電力供給システムへの転換が唯一残された道であることを認識する必要がある。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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