記事のポイント
- 脱炭素の流れの中、石炭とともにLNGからの脱却が求められている
- 最大の輸出国は米国で、日本はそこに最多の資金を提供している
- 米国の研究者や環境NGOは日本の「脱LNG」を求める
脱炭素の流れの中で、石炭とともに脱却が求められているのがLNG(液化天然ガス)だ。日本は最大のLNG輸出国となった米国のプロジェクトに、世界最多の資金提供を行なっている。日本政府はLNGを再エネ拡大までの「つなぎのエネルギー」として火力発電などに活用する方針で、都市ガス業界は「クリーンエネルギー」を謳う。しかし、米国の研究者や環境NGOは「クリーン」とは程遠い実態を明らかにし「脱LNG」を求める。(オルタナ副編集長=長濱慎)

■米国は最大の輸出国、日本は「クリーンエネルギー」として活用
天然ガスは石炭、石油と並ぶ化石燃料で、気体の状態で地下などに埋蔵される。ここから不純物を取り除き、マイナス162℃で冷却・液化したのがLNGだ。液化することで体積が気体の600分の1になり、タンカーでの長距離輸送やタンクでの大量貯蔵が可能になる。
米国のLNG輸出量は2023年、オーストラリア、カタールを抜いて世界一になった。これを後押ししたのが「シェール革命」だ。シェールガスは頁岩(けつがん)と呼ばれる岩石層にある天然ガスで、採掘が困難だった。しかし2000年代に始まる掘削技術の進歩によって米国での生産が増加し、同国を世界最大の輸出国に押し上げた。
輸入側で見ると、中国と日本が一位二位という状況が続く。日本においても米国産LNGは存在感を増しており、貿易統計によると輸入が始まった2018年は10位(3.2%)だったのが21年に3位(11%)、22年以降はオーストラリア、マレーシア、ロシアに次ぐ4位(約7%)を占めるまでになった。
LNGの主な用途が火力発電で、日本の電源構成の3割近くを占める。24年12月に公表された「エネルギー基本計画」の素案では40年時点でも3〜4割を火力に依存するとしており、政府は再エネ普及までの「つなぎのエネルギー」として引き続きLNGを活用する方針だ。
もう一つの主な用途が都市ガスで、原料の9割以上を輸入LNGが占める。都市ガス業界はLNGを「石炭・石油に比べて燃焼時のCO2排出量が少ない」、「不純物をほとんど含まないクリーンエネルギー」などとメリットを強調する。
■「LNG=クリーンは嘘」GHG排出量は石炭より多いという報告も
このほど来日したシャロン・ウィルソン氏は「LNGがクリーンというのは嘘だ」と言い切る。シャロン氏はテキサス州に本部を置く環境団体「Oilfield Witness(オイルフィールド・ウィットネス)」の代表で、30年近くにわたって化石燃料産業による汚染を研究してきた。
確かに燃焼時のCO2だけを比較すれば、LNGの排出量は石炭や石油よりも少ない。しかし原料である天然ガスの採掘から精製、液化、輸送、流通までを含むサプライチェーン全体では、まったく異なる実態が見えてくる。
「全体を通しての温室効果ガス排出量は石炭を33%上回るという報告もある」と、シャロン氏は話す。この報告はコーネル大学の研究者が2024年10月に発表したもので、天然ガスの主成分であるメタンが排出量を押し上げるとしている。
※The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States
メタンは温室効果ガスの一種で、温室効果はCO2の25倍ある。シャロン氏は、こう指摘する。
「メタンは揮発性ガスゆえに、LNGプラントでは圧力を調整するため一定量を大気中に放出することが日常的に行われている。メタンは無色無臭で目に見えないのをいいことに、産業界は排出量をごまかし続けてきた」

■米国現地では住民の健康被害や人権侵害も
問題はメタンだけではない。「フラッキング」と呼ばれる方法を用いるシェールガスの採掘や、加工の段階でベンゼン、トルエン、ホルムアルデビドといった有害物質が発生し、水質汚染や大気汚染、健康被害を引き起こす。シャロン氏とともに来日したマニング・ローラーソン氏は「これまでに17人の親族をガンで失った」と訴える。
マニング氏はテキサス州で、化石燃料産業から住民の権利を守る活動に取り組む。米国南東部のテキサス、ルイジアナを含むメキシコ湾岸は石油や天然ガス産業の集積地として栄えてきた一方で、健康被害の多さから「ガン回廊」とも呼ばれている。犠牲になる住民の多くは、黒人などのマイノリティだ。
「地域の政治家は『LNGをもっと作れ』と、産業の成長ばかりを優先して人々の健康には無関心だ。2022年6月には家の近くにあるフリーポートLNGターミナルで爆発事故が起きたが、私たちには何も知らされなかった。企業は住民に対する説明責任を果たしていない」と、マニング氏は憤る。
シャロン氏は、こう補足する。
「化石燃料産業が有する大量の資金が汚職を引き起こし、環境だけでなく政府のシステムまでを汚染している。化石燃料に対する規制もほとんど機能しておらず、第二次トランプ政権下でますます状況が悪化することを危惧している」


■JBICや3メガバンクを筆頭に431億ドルを融資
こうした米国の「LNG汚染」を間接的に支えるのが、日本の企業や金融機関だ。
マニング氏の会話に登場したフリーポートLNGにはJERA、大阪ガス、JAPEX(石油資源開発)が出資。テキサスとルイジアナの州境に位置するキャメロンLNGには三菱商事、日本郵船、三井物産が出資し、LNGの購買契約者にはJERA、関西電力、東北電力、東京ガス、東邦ガスが名を連ねる。
そして両プロジェクトともに、JBIC(国際協力銀行)と3メガバンクが融資を行なっている。
環境団体「シェラクラブ」によると、米国のLNGプロジェクトへの国別融資額は日本が431億米ドル(約6兆7千億円)で第一位。その額は米国内の融資合計額をも上回る。金融機関別融資額でも、三菱UFJを筆頭に3メガバンクが上位3行を占める結果となった。
国際環境NGO「FoEジャパン」の長田大輝キャンペーナーは、こう指摘する。
「日本の資金支援なしに米国のLNGプロジェクトは成り立たない。その一方で、2050年ネット・ゼロが世界的な合意になった現在、LNGの需要は減っていくと予測される。すでに日本が大量に輸入したLNGが余剰になり、購入時を下回る価格で海外に転売せざるを得ない事態になっている」

■トランプ政権下でもLNGが安泰かは不透明
米国のNGO「オイル・チェンジ・インターナショナル」のスザンヌ・ウォン・アジアプログラムマネージャーも、こう指摘する。
「反対運動や法的アクションの高まりによって、トランプ政権になったからといってLNG産業が安泰かは不透明だ。世界的にもLNGに対する風当たりは強まっており韓国、フィリピン、バングラデシュなどではプロジェクトの中止が相次いでいる」
「韓国での中止」とは、2024年に30%弱の受け入れキャパシティを持つ4つのLNGターミナルプロジェクトが中止または延期に追い込まれた件を指す。韓国は中国、日本に次ぐ世界三位のLNG輸入国だが、再エネ拡大によってLNG火力の割合を現状の約26%から2038年までに11%程度に低下させる方針だ。
日本におけるLNGの歴史は1969(昭和44年)、東京ガスと東京電力が共同でアラスカから調達したことに始まる。公害が社会問題化していた当時、重油や石炭に依存していた電力や都市ガスをクリーンで持続可能なものにするための決断だった。
それから約半世紀、LNGが国内の公害問題の解決や産業の発展に寄与してきたことは間違いない。しかし再エネという代替手段があり「クリーン」でないことも明らかになった現在、これ以上LNGにしがみ付く理由は見当たらない。