記事のポイント
- 米調査会社が2025年の最重要リスクに「Gゼロ」を選んだ
- Gゼロとは国際秩序の「仕切り役」が不在の状態を指す言葉だ
- 国際秩序を維持してきた世界的なリーダー不在の中、各国はどう動くか
地政学的リスクを専門とする米国のコンサルティングファーム「ユーラシア・グループ」はこのほど、2025年の「10大リスク」を発表した。同社は10大リスクの一位に、「Gゼロ」を選んだ。気候変動や生物多様性などに取り組むには国際協調が不可欠だが、世界的なリーダーが不在の世の中で各国はどう動くのか。(オルタナ副編集長=池田 真隆)
ユーラシア・グループでは10年以上、「Gゼロ」の危険性について警告してきたが、2025年の10大リスクのトップに位置付けた。
同社は、Gゼロの状態によって、「世界の秩序が崩壊しつつある」とし、「1930年代や冷戦初期に匹敵するほど危険な時代に突入する」と予測した。
加えて、国連安全保障理事会、国際通貨基金(IMF)、世界銀行などの主要な国際機関が、「もはや世界のパワーバランスを反映していない」とも指摘した。
■多くの市民が「グローバリズム」の限界に気付く
同社はGゼロの状態になった要因は3つあると言う。一つ目は、ロシアが米国や欧州に敵意を抱くようになったことだ。北朝鮮やイランと軍事的・戦略的パートナーシップを積極的に構築しようとするロシアを、「世界で最も危険なならず者国家」と評した。
二つ目が中国と米国・欧州との緊張の高まりだ。中国は2000年代初頭に世界貿易機関(WTO)加盟国に入り、貿易によって目覚ましい経済成長を遂げた。だが、民主化は進まず、その結果、中国と米欧の緊張が高まった。
最後の三つ目は、先進国の市民たちが、これまでのリーダーによるグローバリズムでは、自分たちの利益にならないと気付き始めたからだとした。
■「米の同盟国は混乱に巻き込まれないことを願うしかない」
地政学的なリスクが増す中でも、リーダーが出る気配はない。同社は、米国は十分な力を有しているが、「リーダーシップを取ることを望んでいない」と見る。
第二次トランプ政権は2017年の第一次政権よりもはるかに政治的結束が強く、明確な単独主義を掲げている。「米国が長年担ってきた『世界の警察官』『自由貿易の擁護者』『世界的な価値観の守護者』としての役割を放棄する動きが加速するだろう」。
他の先進国についても弱体化が進み、リーダーシップは取れないと予測した。「ドイツの政権は崩壊し、次期連邦議会選ではポピュリスト政党が躍進する可能性が高い。フランスでは政治危機が続いたまま2025年に突入した。英国では不人気な新政権がいまだ足場を固められていない。イタリアはトランプと歩調を合わせるジョルジャ・メローニ首相に率いられ、比較的安定しているが、国際秩序を支えるには程遠い」。
与党・自由民主党が衆院で過半数を失った日本については、「石破茂首相は長くはもたないだろう」と分析した。韓国は混乱の極みにあるとした。
こうした状況に、「かつての米国の同盟国は、地政学的に守りを固めることが最優先となっており、頭を低くして、混乱に巻き込まれないことを願うしかない」とまとめた。
■世界の分断は加速し、危機に陥りやすくなる
グローバルサウスについては、「より多極的な世界を望むという漠然とした願望以外に共通点がほとんどなく、世界を地政学的な後退から救い出すほどの力も組織も持ち合わせていない」と指摘した。
インドを新興国で最も力があると評価したが、いまだ低所得国であり、自国の狭い国益を追求するための関係構築に重点を置いていると批判した。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は、世界的な改革を推進するほどの国際的な地位はまだ確立していないとした。
世界第2位の経済大国である中国を、「米国に取って代わることができる唯一の国」と位置付けたが、「たとえその意思があったとしてもリーダーシップを取ることはできない」と言い切った。
「中国を支持し続ける国を生むのに必要な正当性や『ソフトパワー』を欠いているだけでなく、経済問題が進行中で、習近平国家主席が国家安全保障と政治統制を優先しているため、国内の課題に専念せざるを得ない」
同社は2025年初頭の世界ではリーダーシップの空白が拡大してGゼロの傾向が強まり、グローバルな秩序が平和的に改革されたり刷新されたりする見込みはないとまとめた。世界の分裂は深まり、危機に陥りやすくなるとした。