「経済安全保障」時代のサプライチェーンと人権問題

記事のポイント


  1. 企業経営における「経済安全保障」の重要性は一段と高まっている
  2. 安定調達や供給網の維持は企業にとって経営そのものに直結するテーマとなった
  3. 一方で、ビジネスと人権の観点をどう組み込むかについては十分に議論されていない

2022年以降のエネルギー問題や重要鉱物をめぐる地政学的緊張を背景に、企業経営における「経済安全保障」の重要性は一段と高まっている。安定調達や供給網の維持は、もはや一部業界に限られた課題ではなく、多くの企業にとって経営そのものに直結するテーマとなった。一方で、経済安全保障を進めるうえで、ビジネスと人権の観点をどのように組み込むかについては、必ずしも十分に議論されているとは言い難い。(弁護士・佐藤暁子)

■採掘現場で先住民の権利が保障されず

例えば、ニッケル、コバルト、リチウムといった「重要鉱物」は、電気自動車のバッテリーをはじめ、脱炭素化を進めるうえで欠かせない資源である。しかし、そのサプライチェーン、とりわけ原材料の採掘現場では、さまざまな人権・環境リスクが指摘されている。

代表的な論点の一つが、先住民族の権利である。鉱山開発が先住民族の土地で進められる一方で、「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」が十分に保障されないまま採掘許可が与えられるケースは少なくない。

また、採掘に伴う水質汚染が地域住民の生活や健康に影響を及ぼすこともある。さらに、採掘現場では、賃金、労働安全衛生、ハラスメントなど、国際的な労働基準が十分に担保されていないとの指摘もある。

加えて、こうした鉱物資源によって生み出される利益が、地域社会に十分還元されていないという課題もある。経済安全保障を自国・自社中心のみで捉えると、結果としてグローバルノースとグローバルサウスの格差拡大につながり、長期的には国際社会全体の安定性を損なうリスクにもなり得る。

その意味で、「サプライチェーンの強靱化」は、単なる調達先の分散といった経営管理だけを意味するものではない。サプライチェーン上で脆弱な立場に置かれやすい労働者やコミュニティが受けうる負の影響を把握し、ビジネスと人権の観点を踏まえて、その対応を強化していくことも含まれる。

社会の不安定化は事業の持続可能性を脅かす

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弁護士・佐藤 暁子

弁護士。人権方針や人権リスクアセスメントなど、国連ビジネスと人権に関する指導原則に即した人権デュー・ディリジェンスの実施に向けた社内体制構築とその実践強化に注力。「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」委員など政策提言にも取組む。認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局次長、国際人権NGOビジネスと人権リソースセンター日本リサーチャー・代表を経て、20224月より国連開発計画(UNDP)ビジネスと人権プロジェクトリエゾンオフィサーとして人権デュー・ディリジェンス研修などを担当。日本弁護士連合会国際人権問題委員会事務局次長、同ビジネスと人権PT。企業と社会フォーラム理事。Social Connection for Human Rights共同創設メンバー。ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク運営委員。上智大学法学部国際関係法学科、一橋大学法科大学院卒業。International Institute of Social Studies開発学修士号(人権専攻)。共著「人権デュー・ディリジェンスの実務」(きんざい・2023年)

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キーワード: #ビジネスと人権

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