2022FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会が11月21日に開幕する。だが、スタジアムの建設現場や周辺インフラ設備工事では、40度を超える暑さと過酷な労働で多くの命が失われた。英ガーディアン紙の調査によると、移住労働者の死亡者数は6500人を超えるという。賃金の未払いも後を絶たない。FIFAに救済基金の設立を求める動きが広がるものの、日本の反応は鈍い。(オルタナ副編集長=吉田広子)
「父の写真を見るたびに、涙が込み上げてくる。4年に一度のワールドカップは、選手や視聴者にとって、楽しい一大イベントだ。でも、美しいスタジアムの裏には、たくさんの犠牲がある。私たちのような貧しい労働者、取り残された人たちがいることを知っておいてほしい」
建設現場で働く父を亡くしたネパール人のラム・プカール・サハリさんは、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW、本部:米ニューヨーク市)が開いた記者会見でこう語った。亡くなった父とは別の会社だが、自身も移住労働者としてカタールの劣悪な環境で働いていた。ラムさんは、スタジアム周辺の高層ビルの建設に携わり、父より一足先に帰国した。
父が死亡した後、建設会社からの補償がないばかりか、「出稼ぎ」のための法外な斡旋料に苦しむ。
■賃金未払いや法外な斡旋料が横行
ワールドカップのカタール開催は、2010年に決まった。その後、巨額の費用をかけて、スタジアムの建設や周辺整備が進んだ。それを支えたのが、数百万人にも上る海外からの移住労働者だ。そのほとんどは、インドやバングラデシュ、ネパール、アフリカ大陸など貧しい国から来ている。
40度を超える酷暑、休憩もない長時間労働、賃金未払い、法外な斡旋料――。希望を持ってカタールに移住した貧しい労働者たちは、劣悪な労働環境と人権侵害に苦しんでいる。
英ガーディアン紙はこの10年間で6500人以上が死亡したと報じたほか、数万人が作業中に負傷し、国際労働機関(ILO)には1年間で3万件を超える未払い賃金に対する苦情が通報された。
■FIFAに救済措置を要請、サッカー協会の反応は
2019年の6月にケニアへの中継地としてカタール・ドーハに滞在し、43℃の気温の中、市中を徒歩で散策しました。元サウジ駐在員ながら3時間で限界を感じ、ホテルに逃げ帰りましたが、窓から見える建設現場の労働者たちはエアベスト(空調服)を付けることもなく、黙々と作業に取り組んでおり、休息や体調管理がどのようになされているのか気になってはいましたが、今回犠牲者の多さに驚きました。どうすれば声を上げられたのか分かりませんが、現場を見ていながら行動しなかったことには責任の一端を感じます。