記事のポイント
- パリ協定では世界の平均気温の上昇幅を「1.5℃」に抑えることを目指す
- 「気候オーバーシュート」を前提に達成しようとするのはリスクが大きい
- 「ティッピングポイントを超えると、地球環境が元に戻らないリスクも」
パリ協定で掲げた「1.5℃目標」の達成に向けて、国際機関やNGOなどが温室効果ガス(GHG)の削減シナリオを策定している。「気候オーバーシュート」を前提とした削減シナリオは、革新的技術でのGHG除去に頼る必要がある。専門家は、「ティッピングポイントを超えると、地球環境が元に戻らないリスクが大きい」と指摘する。(オルタナ編集部=松田 大輔)
気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇幅を、産業革命前と比べて1.5℃以内に抑えることを目指す。これを「1.5℃目標」と呼び、目標の達成に向けて国際社会は協力して取り組む必要がある。目標達成の目指し方は、大きく分けると2つある。
一つは「早期削減シナリオ」と呼ばれ、文字通り、世界の平均気温が1.5℃以上上昇しないように対策するものだ。達成するために、GHG排出量の削減を早期に進める必要があるとされる。
他方、平均気温の上昇幅が一時的に1.5℃を超えるが、長期的には1.5℃以内に抑えるシナリオもある。「気候オーバーシュート」を想定したシナリオで、1.6℃以上の気温上昇など、わずかに1.5℃を上回る場合は「限られたオーバーシュート」と呼ばれる。さらに大幅な気温上昇を想定する場合は、「高いオーバーシュート」と呼ばれる。オーバーシュートは、英語で「行き過ぎ」といった意味だ。
これまでに国際機関やNGOなどは1000以上のシナリオを策定しているが、その多くは気候オーバーシュートを考慮に入れたものだ。日本政府は、2035年度までに2013年度比でGHGを60%削減する目標を掲げる。政府はこれを、「オーバーシュートしない、または限られたオーバーシュート」を想定したシナリオであると説明する。
気候オーバーシュートを前提としたシナリオで1.5℃目標を達成するには、CCS(二酸化炭素回収・貯留)など二酸化炭素(CO2)の除去技術が必須だ。一時的に上昇幅が1.5℃を超えるものの、CCSなどで大気中のCO2を回収して地中に埋めることで、長期的には1.5℃以内に抑える。
だが、CCSの技術は確立しておらず、コストも未知数だ。限られた時間の中で、想定通りに実用化できない可能性もある。
国立環境研究所(茨城県つくば市)の増井利彦・社会システム領域長は、CCSなど革新的技術に頼るシナリオはリスクが大きいと指摘した。継続的に1.5℃を超えた場合、海面上昇がさらに加速し、生態系に与える影響も甚大となる。増井領域長は、「ティッピングポイント(不可逆的な転換点)を超えると、地球環境が元に戻らないリスクが大きい」と警鐘を鳴らす。
増井領域長は続けて、「最終的に気候オーバーシュートとなるかは、すべての国・地域のGHG排出量で決まる。日本は世界5位の排出国であり、先頭に立った取り組みが求められる」と強調した。