記事のポイント
- 近畿大学水産研究所が世界で初めて、ノドグロの完全養殖に成功した
- 苦節10年の研究の成果、能登半島地震の被災を乗り越え
- 深海魚の飼育技術の研究・開発を進め、養殖に適した稚魚の安定生産を目指す
近畿大学水産研究所(和歌山県白浜市)は、富山実験場(富山県射水市)において、世界で初めてノドグロ(標準和名:アカムツ)の完全養殖に成功した。日本海で獲れる希少な高級魚の飼育方法など、飼育技術全般の研究・開発をさらに進めて安定した生産を目指す。(経済ジャーナリスト・海藤秀満)

■ノドグロの完全養殖に成功、近畿大学では30魚種目
近畿大学水産研究所は2月5日、富山実験場の陸上水槽において、高級魚として知られるノドグロ(和名:アカムツ)の完全養殖に世界で初めて成功したと発表した。完全養殖とは、人工的にふ化した稚魚を育てた成魚が産卵し、その卵で再び人工ふ化を行うことだ。
近畿大学の完全養殖に成功した魚種目としては30例目だ。天然資源に依存しない、持続的な生産サイクルを目指す。
ノドグロは日本海側で獲れる魚種で、100m以下の深海に生息している。その味は美味だが、1年でも漁獲期は8月、9月に限られ、漁獲量は少ない。希少ゆえに値段が高い高級魚として知られる。成魚は20cmから30cmほどになる。
近畿大学ではこれまで、1965年のヒラメをはじめ、ブリ、クロマグロなどの完全養殖例があるが、深海魚での成功は今回のノドグロが初めてだ。
ノドグロの養殖研究事例はほとんどない。韓国と台湾で研究事例は確認されるが、今回のような完全養殖の達成例は世界初だという。

■苦節10年の研究、能登半島地震の被災を乗り越え
本研究は、近畿大学のベンチャー企業で養殖による成魚や稚魚を販売するアーマリン近大(和歌山県西牟婁郡白浜町)が近大水産研究所に持ちかけた。近大水産研究所の富山実験場で2015年から研究が始まり、16年に人工ふ化に成功した。
富山実験場では陸上水槽で飼育されるが、ノドグロはデリケートで神経質な魚のため、雷やトラックの走行の振動などでパニック死する事例もあった。
海面養殖では近年の海水温度上昇で深海魚の飼育には適さず、水槽での温度管理や飼育方法、飼料、給餌方法、病気への対策など、まだその生態が謎のノドグロの養殖技術全般の研究・開発は苦労と失敗の連続だった。

23年には3万尾以上の稚魚の生産に成功したものの、24年元旦の能登半島地震が富山実験場を襲う。実験場の水槽や配管が破損し、停電により稚魚は大量死してしまう。
しかし、わずかに生き残った稚魚を24年に新潟県糸魚川市筒石沖に放流するなどしながら研究を続け、25年10月に養殖ノドグロ3歳魚の卵からの人工ふ化に成功し、完全養殖が達成された。卵から稚魚への生存率は当初の約0.1%から20%程度まで高まった。
■品種改良と安定した種苗の生産技術の確立を目指す

現在、人工ふ化したノドグロの9割以上が雄になるという。その原因究明と雌の生産方法を開発して生産性を高めることが求められる。
また、現在の養殖方法ではマダイやブリに比べて成長が遅いノドグロを品種改良によって高成長化することも試みる。
産卵技術の向上による良質な卵の大量確保や、卵からの飼育技術の改善で安定した種苗(稚魚)の生産技術の確立が目標となる。
近大水産研究所の家戸敬太郎所長は「人工ふ化までうまくいっても、飼育する過程で全滅してしまうことの繰り返しでとても苦労した。22年に約1万尾の稚魚の生産に成功したのが最初のブレークスルーだった。完全養殖達成にはもう1年くらい時間がかかるかと思っていたが、チャレンジを続けて実現できた」と喜びを語った。
養殖した稚魚を種苗として養殖業者に卸せる商用化の段階が5年後、その成魚が食卓で食べられるようになるのに8年後を目標に研究・開発を続けるという。養殖により、天然では漁期が限られるノドグロが通年を通して食用として流通される可能性が広がる。



