南鳥島沖のマンガン採掘、環境アセスメントのモデル構築を

私たちに身近な生物多様性(40)

記事のポイント


  1. 小笠原諸島・南鳥島沖の深海に希少金属を含むマンガン団塊の集積地を発見
  2. 2025年には採鉱に向けた大規模な実証実験を行う計画だ
  3. 海洋における環境アセスメントモデルの構築にも取り組むべきだ

小笠原諸島・南鳥島沖の深海に希少金属を含むマンガン団塊の有望な集積地が発見された。2025年には採鉱の実証実験を行う計画だ。その際、並行して進めてもらいたいのは海洋における環境アセスメントモデルの構築だ。(生きものコラムニスト=坂本 優)

哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などは、ひとまとめにして「脊椎動物門」と分類される。「メイオベントス」においては、今世紀に入ってからも新たな「門」レベルの生物の記載が相次いでいる。(注:メイオベントス/海底に生息する生物の総称をベントス(底生生物)といい、その内、1mmのふるいを通過して32μm前後の細かいふるいで採れる底生生物のこと。主に微細藻類、有孔虫類、線虫類などがある。/海洋生物多様性保全戦略用語集から)

そしてメイオベントスより更に微細な生物の世界があり、新たな海域を調査すると次々と新種が発見される。

海底火山の熱水鉱床周辺には、酸素に依存しない化学合成生物の世界が広がっているがその生物たちの生態系、他の生態系とのかかわりなど解明されていないままだ。

海洋生物多様性、とりわけ深海におけるその実態の解明は陸域や内水域に比べはるかに遅れている。おそらくその多様性の仕組みや機能などは、今後膨大な情報を集積し、AIを活用し統計的な手法も駆使しなければ概要すら把握できないのではないだろうかと推測される。

このような現状を踏まえつつ、いかにして深海資源開発と生物多様性保全との調和を図るか。海洋、特に深海における資源開発における環境アセスメントのモデルをつくるか、南鳥島沖のマンガン団塊の商業的利用は、その実践の場でもあるのだ。

2022年にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約COP15で採択された2030年目標では、海洋の30%を生物多様性保全のための保護区とすることを目指している。

海洋保護区は、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議COP10において、議長国としての日本が中心となって提唱し、海域の10%を保護区とすることを2020年に向けた世界共通の目標としたものだ。

この目標は達成されていないが、その重要性についての認識は深まり、30%と目標を拡大したうえで取り組みが継続されている。

海洋大国として、海洋保護区の設定を主導した日本として、今回の採掘事業化にあたっては、今後の海洋開発の指針となり、深海の生物相の解明にも資するような環境アセスメントモデルの構築実践を大いに期待している。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生、東京大学法学部卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (70歳代チーム)で現役続行中/関東ラグビー協会参与)

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キーワード: #生物多様性

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