40年で助成総額6億円、自然回復に力を入れる富士フイルム

記事のポイント


  1. 富士フイルムは40年前に公益信託「富士フイルム・グリーンファンド」を設立
  2. 40年間で助成件数は225件、助成総額は6億円を超えた
  3. 筆者が後藤禎一・富士フイルムホールディングス社長に話を聞いた

■小林光のエコめがね(34)■

「富士フイルム・グリーンファンド」が40年を迎えた。富士フイルムが10億円を預託して公益信託「富士フイルム・グリーンファンド」を設け、市民による森づくりプロジェクトへの複数年にわたる支援、そして、身近な自然保護の活動や小規模な研究プロジェクトの助成を開始したのが1983年。その後の40年間で助成件数は225件、助成総額は6億円を超えた。

たまたま筆者(小林)が、助成先を選定する委員会の委員長をここ8年間仰せつかっている関係で、出資者の富士フイルムホールディングスの後藤禎一社長と対談する機会を得た。対談を、このファンドの機関紙「Green Letter」(年一回の刊行だが、今回は特別に発行)40周年年記念号に掲載するためである。

自分としては、対談に備えて、同社の統合報告書を読み込んだ。そうしたところ、同社の経営と環境との関係で、他の会社にはあまり見られないユニークな点がかなり見られたので報告したい。

まず、どこの会社でも作る長期経営計画を見よう。

ほとんどの会社は、会社が成長することを投資家に意識させるため、趣向を凝らした名前を付けているが、富士フイルムでは、この長期経営計画が、なんとCSR計画なのである。つまり企業の社会的な責任・役割を果たすことが経営の最上位に位置することになる。

その名称は「サステナブル・バリュー・プラン2030」。企業価値の成長は結果であって、サステナブル・バリューをつくりこむ計画として構成されている。その中身としても、環境がいの一番に置かれ、製造過程のカーボンニュートラル化のような定番取り組みはもちろんとして、KPIの中に水の消費量などを盛り込んでいるなど、目配りが環境の幅広い側面に及んでいることが見て取れた。

例えば、水は、日本では潤沢にあるように思いこまれていて、企業が、経営リスクに加えず、海外投資家からの評価を下げてしまう大きな原因になっている。しかし、同社では、当たり前のように、水が経営の健全度を測る指標の一つになっている。

その理由を後藤社長に尋ねてみた。理由は、創業の商品、写真フイルムの製造には、きれいな水が不可欠であり、創業工場も、良質な水を得られるという観点で立地選定が行われたからである、ということであった。創業以来、したがって、水や空気などの環境の清澄さを守ることが経営の原点に据えられている。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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キーワード: #生物多様性

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