記事のポイント
- 太平洋島しょ国・バヌアツの排出量は、世界全体の0.00016%に過ぎない
- しかし気候変動の影響を大きく受け、1つのサイクロンでGDPの64%を失うほどだ
- 今月来日したバヌアツの気候変動大臣が上智大学で同国の思いを語った
太平洋島しょ国は、海面上昇やサイクロンの激甚化など、気候変動の影響を最も強く受ける。例えばバヌアツは、世界の排出量に占める割合は0.00016%に過ぎないのに、1回のサイクロンでGDPの64%を失うほど、気候変動による影響を大きく受けている。同国から来日したラルフ・レゲンヴァヌ気候変動適応・気象・地象災害・エネルギー・環境・国家災害管理大臣は3月13日、上智大学で講演した。その内容を一部紹介する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

上智大学アイランド・サステナビリティ研究所は3月13日、バヌアツ共和国のラルフ・レゲンヴァヌ気候変動適応・気象・地象災害・エネルギー・環境・国家災害管理大臣を招き、「島々は沈まない」と題する講演会を開いた。
バヌアツは、80余りの島々から成る島国だ。国土面積は1.2万平方キロメートルと新潟県より少し広い大きさで、人口約32万人が暮らす。1906年に英仏両国の共同統治領となった歴史を持つが、1980年にバヌアツ共和国として独立した。
世界における気候変動への取り組みにおいて、バヌアツが果たしてきた役割は大きい。
2025年7月には、国際司法裁判所(ICJ)が「気候変動対策は国家の義務だ」とする勧告的意見を全員一致で発出したが、ICJに勧告的意見を要請したのはバヌアツの若者たちだった。レゲンヴァヌ大臣は、当時は外相としてこの動きを後押ししてきた人物だ。
■2030年までに電力普及率と再エネ利用を100%に
レゲンヴァヌ大臣は講演会で、同国のさまざまな施策・気候変動適応策を説明した。
例えばエネルギー政策に関しては、同国は2030年までに電力普及率100%、再エネ利用100%の目標を掲げる。
最大の島・サント島では、JICAの支援する大規模水力発電プロジェクトの貢献も大きく、2つの目標の同時達成に目途がついたと話す。しかし課題は、電力消費量の多い首都ポートビラでの再エネ移行だ。これまで、主要電力はディーゼル燃料の輸入に依存していた。
ほぼすべての家庭が太陽光発電システムを導入するなど、再エネへの移行を進めつつ、同時にココナッツオイルを活用した発電も進める。ココナッツを使った発電は、試験運用ですでに有効性を確認できており、今後2基の発電設備の導入を進めていくという。
■2018年に世界に先駆けて使い捨てプラを禁止に
プラスチック汚染対策でもバヌアツは2018年、世界でいち早く、プラスチック製カップやカトラリーなど、あらゆる種類の使い捨てプラ製品を禁止した。レゲンヴァヌ大臣は、「その効果は表れている」と力をこめる。
2025年には新たに生産者責任を法制度化し、その一環として、2026年からは飲料容器のデポジット制を開始した。また小さな島では埋立処分の土地も限られるためリサイクルは重要な課題だ。
バヌアツでは現在、企業が鉄、ブリキ、プラスチック、電池を回収し、圧縮してコンテナで輸出をする。今回の来日では、日本の廃棄物処理施設や廃水処理施設も視察したと話す。
■公海での多国間海洋保護区の設立に動く
生物多様性保全に関しては、2026年1月に公海等生物多様性(BBNJ)協定が発効した。
バヌアツは、ニューカレドニアやパプアニューギニア諸島などとともに、新たなBBNJ協定の下で初となる国際海洋保護区の設立を準備中だ。
■日本もバヌアツも同じ火山列島
火山列島のバヌアツは2026年2月の火山の噴火により、3月13日時点でも「警戒レベル3」の状況下にある。大臣は「警戒レベルがさらに引き上げられれば、島全体を避難させなければならない状況にある」と緊迫した声で話す。地震も多く、2024年12月にはマグニチュード7.3の大地震が発生し今もその復興に取り組んでいる。
しかし、「バヌアツにとっての主要な災害は、熱帯低気圧や豪雨に伴う土砂崩れだ」とレゲンヴァヌ大臣は話す。
2015年3月には南太平洋で初めて、5段階強度の最高位である「カテゴリー5」級のサイクロンが発生し、バヌアツを直撃した。このサイクロンで同国はGDPの64%を失ったと話す。
サイクロン被害は近年、強度と頻度を増している。2020年には、カテゴリー5級のサイクロンが2回発生し、2023年には1週間で2つのサイクロンが同国を襲った。
レゲンヴァヌ大臣は、あらゆる開発、インフラ整備・統合、保健の活動を、気候変動への適応の視点で行っており、レジリエントな地域社会の構築が重要課題だと話す。
■気候危機に脆弱なバヌアツからの訴え
独立運動でバヌアツの国民は主権を勝ち取ったが、「子どもたちのためにより良い未来を築きたいとの発展に向けた志があっても、私たちの未来の選択肢は、国境を超えた先にある他国の行動で狭められている」と切実に訴える。
「世界のGHG排出量のわずか0.00016%しか排出していない国が、強大化したサイクロンに直面し、わずか3日間でGDPの64%を失うような状況だ」
「私たちがどのように努力をしても、主権の及ばない他国の行動が、私たちの未来を左右する大きな要因となっている」
2025年7月に国際司法裁判所(ICJ)が、「国家には気候変動対策を行う法的責任がある」との勧告的意見を出した。各国の国内法や訴訟にもこの意見の影響が及ぶなど、「すでにいくつかの変化は確認した」とレゲンヴァヌ大臣は話す。
国家がこの責任を履行せず、GHG排出の主要因である化石燃料の使用を促進し続けるならば、それは国際法上の違反行為を犯していることになる。では、国家がその責任を履行していない場合はどうなるのか。「それが、私たちが提起した問いの核心だ」とレゲンヴァヌ大臣は語る。
■国際法に基づいて問題提起を続ける
■ICJの勧告的意見までの道のり

