記事のポイント
- 米海洋大気庁は今夏のエルニーニョ発生確率を62%と予測する
- 「スーパー級」に発達する可能性も示唆し、2027年は観測史上最高気温の可能性も
- 食料と健康への打撃は免れず、特に途上国や社会的弱者に偏る
米海洋大気庁(NOAA)はこのほど、2026年6月から8月にかけて、エルニーニョ現象が発生する確率が62%あると発表した。複数の予測モデルが、「スーパー級」に発達する可能性も示唆し、2027年は観測史上最高気温になる可能性も高いという。気候災害の発生にも注意が必要だが、人為的な温暖化に自然変動の熱が加わることで、食料と健康への打撃が、途上国や社会的弱者を直撃する恐れがある。(在テキサス編集委員・宮島謙二)

米機関は「スーパーエルニーニョ」となる可能性も示唆する
■今夏にもエルニーニョ現象が発生へ
太平洋赤道域で貿易風が弱まると、西側の暖水が東へ広がる。南米ペルー沖の海面水温が平年より高い状態が約1年続く。これがエルニーニョ現象だ。昨今の温暖化の影響で、エルニーニョ現象は大気の循環パターンを変え、世界各地で干ばつや洪水など深刻な気候災害を引き起こす。
現在、太平洋の海洋表層では巨大な暖流が東へ進んでいる。日本の気象庁も夏にエルニーニョが発生する確率を60%と評価した。世界気象機関(WMO)の季節予報は、5月にもエルニーニョ領域に入り、6~7月には強いエルニーニョに発達すると予測する。
また複数の予測モデルが、監視対象海域の海水温偏差が+2.0℃超となる「スーパーエルニーニョ」への発達を示唆する。
春のエルニーニョ予測は、不確実性が高いため「春の予測の壁」と呼ばれる時期にあたる。だが、コロンビア大学国際気候社会研究所(IRI)によると、夏以降の発生確率は72〜80%に達するという。
■温暖化にプラスアルファの熱
エルニーニョは海洋に蓄えた熱を大気へ放出する。
2023〜24年に発生したエルニーニョでは、世界の年平均気温が2年連続で観測史上最高を更新した。2024年は産業革命前の水準よりも1.5℃以上暑くなった。
気候変動に関する米研究機関バークレー・アースの気候科学者であるジーク・ハウスファザー氏は、2027年は再び観測史上最高を更新する見込みだと分析した。米カリフォルニア大学の気候科学者で米タイム誌の「もっとも影響力のある次世代100人」にも選ばれたダニエル・スワイン氏は、産業革命前比で1.6℃以上上昇しうると指摘する。
ハウスファザー氏と、温暖化の危険性を世界に先駆けて警鐘を鳴らした「地球温暖化の父」として知られるジェームズ・ハンセン氏は、今回のエルニーニョ現象により、気温上昇が1.7℃以上に達する可能性を否定しない。エルニーニョは世界平均気温を最大0.2℃押し上げる。
エルニーニョによる気温への影響は約3カ月後に現れる。2026年後半の発生が27年の記録的高温を招く構図だ。
ここで気がかりなことが1点ある。エルニーニョは2026年秋から冬にピークを迎えるため、2026年の世界平均気温が過去最高を更新する可能性は低い。最も影響が現れるのは2027年に入ってからのはずだ。
しかし、2023年はエルニーニョの発生前から気温が上昇し、エルニーニョ発生年に観測史上最高気温を記録した。異例のことだが、温暖化が進んだ世界では予測不能なことが起こる。一度あることは二度あるかもしれない。警戒と準備が必要だ。
■影響は米国と日本にも波及する
米国では南部から西部にかけて降水量が増え、北部は高温と乾燥が強まる傾向がある。エルニーニョの恩恵として、大西洋ハリケーンの活動を抑える作用をもたらす。だが、気候変動で海面水温が記録的に高いため、抑制効果は限定的になりうる。
日本では統計上、エルニーニョ発生時には冷夏になる傾向がある。しかし、気象庁の暖候期予報は、今夏の全国的な高温を見込む。台風は中心気圧が低くなりやすく、激甚化への警戒が必要だ。
世界に目を向けると、エルニーニョの影響は甚大だ。前回のエルニーニョ発生時には、アフリカ南部の干ばつや「アフリカの角」と呼ばれる東部地域の洪水、アマゾンの干ばつや山火事、サンゴ礁への極端な熱ストレスなどの気候災害を引き起こした。
■イラン情勢が食料危機に追い打ちをかける
エルニーニョは東南アジアに干ばつをもたらし、農業を直撃する。同地域では労働人口の約29%が農業に従事する。生活への影響は必至だ。食料品の高騰は暮らしを圧迫する。日本もほぼ全量の肥料の原料を輸入に頼る。
ここに追い打ちをかけるのが、米国・イスラエルによるイラン攻撃に端を発するホルムズ海峡の事実上封鎖の影響だ。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、世界の海上原油貿易の38%が同海峡を通過する。肥料の海上貿易も3分の1が経由する。エルニーニョの影響に加え、原油高と肥料不足が農業部門の被害を拡大する恐れがある。世界の食料安全保障は、二重の試練を迎える。
食料を輸入に依存する日本において、原油高と肥料の供給不足は、食料品の高騰につながる。その影響は低所得層に重くのしかかる。
■不公正な社会構造が健康と命を削る
2026年1月、米ネイチャー・クライメート・チェンジ誌は、エルニーニョと寿命の関連についての研究を掲載した。1982〜83年のエルニーニョでは、高所得国の平均寿命が0.5年縮んだ。経済損失は2.6兆ドル(当時の為替レート1ドル230円で598兆円)相当に達した。
同誌の別の研究は、気温が1℃上昇すると貧困率が最大1.18ポイント上昇すると分析した。子どもや高齢者、基礎疾患のある人は感染症や熱中症のリスクが高い。屋外労働者や住居がない人、冷房の使用をためらう低所得層にとっても、エルニーニョがもたらす余剰分の暑さが健康と命のリスクとなる。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書によると、33億人が「非常に脆弱」な国で暮らす。そのような気候に脆弱な国では、英国・カナダ・スウェーデンなどの気候脆弱性が低い国に比べて、洪水、干ばつ、暴風雨による平均死亡率が15倍に達する。
エルニーニョが引き起こす気候災害は、脆弱な国の人々にとって、健康と命のリスクをより大きくする。排出量が少ない国の社会的立場が弱い人々に影響が偏る、典型的な気候正義問題だ。 エルニーニョは自然現象だ。だが、被害の偏りは、社会の構造が生んだ問題にほかならない。


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