記事のポイント
- 世界人口の約半数の労働者が、温暖化による酷暑にさらされている
- WHOなどが労働者に与える健康への影響についてまとめた
- 地域の気象パターンや職種に応じた仕事場での暑熱対策を呼びかけた
世界保健機関(WHO)と世界気象機関(WMO)は8月22日、極端な暑熱が労働者に及ぼす深刻な健康課題に関する共同報告書を発表した。また、政府や雇用主、保健当局に向けたガイドラインも示した。ILO(国際労働機関)によると、世界人口の約半数に相当する24億人超の労働者が、気候変動による酷暑のリスクにさらされている。WHOとWMOは、地域の気象パターンや職種に応じて、仕事場での暑熱対策を策定するよう呼びかけた。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

2024 年は、観測史上、最も暑い年となった。2025年も、日本では気温が40℃に達する夏を経験しているが、世界では、日中の気温が 40℃超、50℃超となる日が増えている。
人為的な気候変動の影響により、世界中で熱波の頻度と強度が急激に高まる中で、WHOとWMOは、50年以上にわたる研究とエビデンスを基に、熱波が労働者の健康に与える影響をまとめた。
報告書「気候変動と仕事場での熱ストレス」(英語)はこちら
「労働者の熱ストレスは、赤道に近い国々に限定された問題ではもはやない。世界的な社会問題だ」とWMOのコ・パレット副事務局長は強調する。
「労働者を極端な暑さから保護することは、健康課題への対処の観点だけでなく、経済面でも必要なことだ」(同)
■気温1℃上昇で労働生産性は2~3%低下する
報告書によると、農業、建設業、漁業など屋外での仕事に従事する労働者だけでなく、屋内の労働者にも、熱波による健康リスクが高まっている。このリスクには、熱中症や脱水症状のほか、腎機能障害や神経障害など、長期にわたって健康を阻害するリスクも含む。
報告書はまた、気温が20℃を超えてくると、気温が1℃上昇するごとに労働者の生産性は2~3%低下するとの分析も示した。
ILO(国際労働機関)によると、すでに世界人口の約半数に相当する24億人超の労働者が、過度の暑さにさらされており、その結果、毎年2285万件超の労働災害が発生しているという。
■脆弱な労働者層に配慮した暑熱対策を
WMOとWHOは、暑熱のリスクから労働者を守るために、政府や雇用主などに対し、暑熱対策の計画策定と実施を呼びかける。
そして、以下の点を推奨した。
- 地域の気象パターン、特定の業界・職種、労働者の脆弱性を考慮した形で、計画と勧告を備えた、職場での熱中症対策を策定すること
- 特に、中高年の労働者や、慢性疾患のある人、熱ストレスの影響を受けやすい体力の低い人々など、脆弱な層に焦点を当てた特別な配慮をすること
- 熱中症の症状は、誤診されるケースが多いことを踏まえ、救急隊員、医療専門家、雇用主、労働者に対し、熱中症の症状を認識し、適切な治療につなげるための教育と意識向上を図ること
- 暑熱リスクに対応した健康戦略の策定には、労働者、労働組合、保健専門家、地域の自治体などのすべての関係者が参画すること
- 効果的かつ実践しやすく、手頃な価格で、環境面でも持続可能なソリューションを設計すること
- 生産性を維持しながら健康を守るのに役立つテクノロジーを導入し、イノベーションを推進すること
- 仕事場での暑熱に対する健康対策についての研究・評価をサポートし、その有効性を強化することで世界中の労働者を最大限保護すること