記事のポイント
- カナダのトルドー首相の後任に、元中央銀行総裁のマーク・カーニー氏が選ばれた
- カナダや英国の中央銀行総裁を歴任し、金融や経済に精通することで知られる
- 近年は、気候変動対策でもリーダーシップを発揮している
カナダの与党・自由党党首選で、マーク・カーニー氏が圧倒的な勝利を収め、次期カナダ首相に就任する。カナダや英国の中央銀行総裁を歴任した経歴から、金融や経済に精通することで知られるが、近年は、気候変動対策においてもリーダーシップを発揮してきた人物だ。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

(c) Liberal Party of Canada
■危機下の中銀総裁として誉れ高い人物
カーニー氏は、両親が教師をしていたカナダの北西準州フォートスミスで生まれ、アルバータ州の州都エドモントンで育った。米ハーバード大学に進学し、アイスホッケーのゴールキーパーとしても活躍した。その後、英オックスフォード大学で修士号を取得した。
ゴールドマン・サックスで勤務した13年間には、ニューヨーク、ロンドン、トロントのほか東京にも赴任し、投資銀行業務に携わった。2003年にカナダ銀行の副総裁に任命され、財務省の要職を経て2008年にカナダの中央銀行総裁に就任した。この時、カーニー氏は42歳だった。
2008年のリーマンショック(金融危機)に際しては、緊急融資制度の創設や、特定期間、金利を過去最低水準に維持する異例の指針を示し、その対応は称賛を浴びた。
2013年、当時の英国財務大臣からヘッドハンティングされ、英国の中央銀行にあたるイングランド銀行の総裁に就任。非英国人としては初となる中銀総裁就任は当時、「ロックスターのような中央銀行総裁」と呼ばれた。
当時の英国はブレグジットに関する議論が白熱しており、カーニー氏はこの議論にも介入。EUからの離脱が英国経済に及ぼすリスクについて繰り返し警告を発した。
2016年、ブレグジットに関する国民投票の結果が発表されると、数時間後に英ポンドが急落した。カーニー氏はテレビ演説を通じて、必要に応じて銀行が流動性を供給することを確約し、ブレグジット後の英国経済を安定化させた。
■数年先しか見通せない「地平線の悲劇」
カーニー氏が気候危機を強く意識することになったのは、2013年から2020年にかけての英中銀総裁時代だった。
カーニー氏は2021年、国連でのインタビューの中で、「イングランド銀行総裁として保険業界を監督する立場にあった時、異常気象の数が四半世紀で3倍に増え、そのコストが5倍に膨れ上がっていることに気づいた」と振り返り、「こうした事実に触れ、気候変動について真剣に考えるようになった」と答えている。
カーニー氏のスピーチで有名なのは、2015年9月に行った「地平線の悲劇を断ち切る~気候変動と金融の安定性」と題するものだ。政治家や金融市場が数年先のことしか見通せていないことを「地平線の悲劇」と呼び、この悲劇によって地球温暖化への取り組みが損なわれていると警告した。
カーニー氏は英中銀総裁時代から、ネットゼロ排出などの気候変動対策に民間セクターを巻き込む取り組みを推し進めてきた。そして2020年、英ボリス・ジョンソン首相によって、同国グラスゴーで開催予定のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の金融顧問に任命される。
COP26は、新型コロナのパンデミックで、実際には2021年11月の開催となったが、カーニー氏は、「ネットゼロ達成には、経済全体の移行が必要。つまり、すべての企業、銀行、保険会社、投資家がビジネスモデルを調整しなければならない」とし、投資家や金融機関に「実存するリスクは、現代最大の商機になり得る」と呼びかけた。
2021年には、ネットゼロ経済への移行支援を目的としたイニシアティブ「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」を創設した。
また同年に出版した著書『Values~経済学者が語る重要なことすべて』では、社会のニーズを見失っている金融主導の資本主義に苦言を呈している。
■掲げた気候変動対策の公約は
■「2030年GHGGHG40~45%削減」目標に向けて