記事のポイント
- 金融庁は「コーポレートガバナンス・コード」の第3次改訂に着手した
- コーポレートガバナンスの動きは企業に広がったが、実効性が課題だ
- 松田千恵子・東京都立大学大学院教授がガバナンス改革のあり方を語った
金融庁は「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」の第3次改訂に着手し、2026年半ばの公表を目指す。CGCができて10年が経ち、コーポレートガバナンスの動きは企業に進展したが、その実効性は問われている。ガバナンスに詳しい、松田千恵子・東京都立大学大学院経営学研究科教授は、「経営の方向性を間違えないための仕組みづくり」の重要性を強調した。(聞き手=オルタナ輪番編集長・池田真隆)

東京都立大学大学院経営学研究科教授。東京外国語大学外国語学部卒業。仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。ムーディーズジャパン格付けアナリスト、国内外戦略コンサルティングファームパートナーなどを経て現職。金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」メンバー、三越伊勢丹ホールディングス株式会社社外取締役、旭化成株式会社社外取締役など。
CGCの第3次改訂が始まった。コーポレートガバナンス改革の実質化が論点の一つだが、まずはガバナンスとは何か、その本質を正しく理解することが重要だ。
ガバナンスは、「船の舵を取る」という意味だ。ガバメント(政府)と似た言葉だが、ガバメントは「上から下へ支配する」というニュアンスが強い。一方ガバナンスは、当事者と関係者の間の関係性のなかで方向性を決め、協力しながら物事を納めていくという概念だ。
ガバナンスに「コーポレート」が付くと当事者が企業に限定される。誤解されやすいのは「企業の内部で企業を統治する」と理解されがちな点だ。実際には企業はガバナンスされる側にある。

内部での統治は「内部統制」と呼ぶべきで、本来はガバナンスとは区別されるべき概念だが、日本では言葉の広がりによって混同されている。
さらに、日本では「コーポレートガバナンス」が「企業統治」と訳されることも多い。そのため、支配・統治という印象が定着してしまった。
だが、コーポレートガバナンスの強化とは、内部の統制力や支配力を高めることではなく、経営の方向性を間違えないための仕組みを強化することを意味する。
その仕組みをつくる主体は外部ステークホルダーで、とりわけ株主になる。株主は会社の所有者であり、経営はプロに任せる。
例えると、株主は船主であり、船長(経営者)に運航を任せるが、船長がどこを目指して運航しているかは気になる。株主総会は年に一回程度しかない。日常的に監視する役割として、同じ船にお目付け役を乗せる。これが取締役会である。
従って、コーポレートガバナンスの文脈では、経営者と取締役会と株主の関係が第一義的な関係者となる。
銀行や従業員、取引先、地域社会などのステークホルダーも利害関係者ではあるが、彼らの利害は企業との契約関係に基づくものであり、経営者が誰かは二次的な関心事項になる。所有と契約、この違いがガバナンスにおける株主とその他ステークホルダーの根本的な差にある。
日本の会社法では、取締役が「執行」と「監督」の両方を担うことを認めている。そのため、日本で米国企業にある「モニタリングボード」や「マネジメントボード」という議論を持ち込むと混乱が生じる傾向にある。そもそも取締役という言葉の意味が異なることを理解した上で議論すべきだ。
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