欧州森林破壊防止規則(EUDR)が競争力を高める好機に

記事のポイント


  1. 欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、森林破壊と無関係な製品だけをEU域内市場で認めるものだ
  2. 適用時期は再延期となったが、企業にとってEUDR対応は単なる負担ではない
  3. 早期に対応準備を進めていくことが、国際市場における競争力を高める好機となるだろう

■オルタナ83号(2025年12月発売号):欧州CSR最前線

EUは森林破壊と無関係な「森林破壊フリー」の製品だけをEU域内市場で認める「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」を導入した。日本企業にとって、EUDR対応は単なる負担ではない。早期に対応準備を進めていくことは、国際市場における競争力を高めていくための好機となるだろう。(CSRコンサルタント・下田屋毅)

欧州は森林破壊と無関係な製品だけの域内流通を認める
EUDR(欧州森林破壊防止規則)を導入した

※本記事は12月初旬に執筆した内容です。その後、EUでは12月10日にEUDRの再延期で合意しました。大企業は2026年12月30日から、零細・小規模事業者は2027年12月30日からの適用となっています。

地球上で森林減少が進む中、EU は森林破壊と無関係な「森林破壊フリー製品」だけを域内市場で認めるEUDR(欧州森林破壊防止規則)を導入した。対象は、牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材だ。

適用開始日である2025 年12 月30 日が目前に迫り、企業はトレーサビリティ確保やIT 基盤、社内体制の整備を急ぐ必要がある。1 年延期案も議論されたが、欧州委員会は中規模・大規模企業について適用開始日を維持した。26 年6 月30 日までの6 カ月間は、加盟国当局による執行を義務付けない「猶予期間」を設ける提案を示している。

一方、マイクロ企業および小規模事業者は適用開始日を26 年12 月30 日に後ろ倒しとする案が示され、特に低リスク国に所在する事業者には、一度の簡易な宣言で足りる仕組みの導入が検討されている。

EUDR は、世界的に進行する森林減少と気候変動・生物多様性喪失の主因の一つが、農地拡大を伴う一次産品の生産にあるとの問題意識から生まれた。従来のEU 木材規則では違法伐採への対応が中心で、農産物を含む幅広いコモディティ由来の森林破壊・劣化を十分に抑制できなかったことが導入の背景にある。

EU は自らの市場に流入する製品のサプライチェーン全体を通じて森林への負の影響を減らすべく、より包括的な規制の枠組みとしてEUDR を位置付けている。

■EUDRに向けて早期の体制づくりが、国際競争力を高める

企業には、生産地の位置情報や生産時期、関連法令への適合状況を収集・保存し、リスク評価と低減措置を行うデューデリジェンスが求められる。国別のリスク分類を定めた実施規則では、各国が低・標準・高リスクの3区分に分類される。低リスク国から調達する事業者は、位置情報等の収集は必要だが、リスク評価・低減プロセスについて簡素化された手続きが認められる。

ただし、EUDR 不適合の懸念があれば、デューデリジェンスを実施し、必要に応じて当局へ報告しなければならない。標準・高リスク国由来の製品についてはより厳格なデューデリジェンスと監視の対象となる。実務面では、膨大なデータを処理するIT システムの整備が課題であり、欧州委員会は適用開始日を維持しつつ、執行猶予等により段階的な導入を図ろうとしている。

日本企業にとってEUDR 対応は単なる負担ではない。サプライチェーンにトレーサビリティを確立し、森林・人権・コンプライアンスを一体で管理することは、ガバナンス強化や顧客からの信頼獲得、脱炭素の要請への備えにもつながる。早期に自社方針とロードマップを定め、サプライヤーとの対話やデジタル基盤整備を進める企業ほど、今後の規制や取引先要求にも柔軟に対応できるだろう。

EUDR は、日本企業が自らの強みである品質やきめ細かな対応力を「環境・社会への配慮」という価値に結び付け、国際市場での競争力を高めていくための好機である。残された時間を前向きに活かし、変革の起点として取り組んでいただきたい。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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