10代の子を持つ従業員:「子との関わり」も満足度の重要要素

記事のポイント


  1. 日本総研は、10代の子どもを持つ従業員の意識・実態調査を実施した
  2. 思春期の子を持つ従業員の満足度には、「子どもとの関わり」も作用する
  3. 仕事について子どもから評価されていると感じる人の満足度は高い傾向

日本総研はこのほど、10代の子どもを持つ従業員にフォーカスを当てた意識・実態調査を実施した。企業の子育て支援策の対象は、低年齢の子を持つ従業員に偏りがちだ。調査結果は、思春期に達した子どもを持つ従業員にとって、子どもと団らんする時間があることや、自身の仕事が子どもから評価されていると感じられることが、従業員自身のウェルビーイングにプラスの影響を与えている可能性を示した。調査を実施した日本総合研究所・創発戦略センターの村上芽チーフスペシャリストに寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

10代の子どもを持つ従業員にとって、
「子どもとの関わり」は「生活満足度」の重要要素

■調査対象は、敢えて10代の子どもの親を持つ親に

日本総研では、「従業員のウェルビーイングと子どもとの関係の意識・実態調査」を実施した。この調査では「10~18歳の子どもを持つ、週20時間以上働く親」を対象に、日常生活で子どもとどう関わっているか、子どもが自分の仕事をどう見ていると感じているか、また、それと仕事観や満足度に関係がありそうか、を調べてみた。

同じ企業のなかでも、職種によって仕事観などが異なる可能性があるため、業種別ではなく職種別に、4691人を対象に分析した。

この調査結果は、人的資本投資や従業員のウェルビーイング向上に関心のある企業にとって、自社の従業員自身をよりよく知る手がかりとなると考える。企業が新たなウェルビーイング施策を企画・検討する際、社内調査に「子どもとの関係」というレンズを入れることも推奨したいと考える。

■回答者の9割近くを占めるのは男性従業員に

まず、2025年時点の、フルタイムで働く人のスナップショットとして注目しておきたいのは回答者の属性である。

10~18歳の子どもを持つ人のうち、87.4%が男性(図1)で平均年齢は52歳(図2)だった。86%が週40時間以上働いている。この世代では、女性が働き続けていてもパートタイムが多いことが表れているだろう。

図1(左)回答者の男女比
図2(右)回答者の年齢
(c) 株式会社日本総合研究所

■「子どもとの時間確保のために転職を検討」した経験者は約3割に

この属性を念頭に、「この半年間に、子どもと毎朝・夜に過ごす時間を増やすために転職しようと思ったことがあるか」という問いに「当てはまる」と回答した人がどの程度いると思われるだろうか(「非常に当てはまる」「当てはまる」「やや当てはまる」を選んだ人の合計)。

結果(図3)は、全体で約30%、職種別にみても約25~37%の範囲で違いが小さかった。 すべての職種で3~4人に1人は、子どもとの時間の確保をするために働き方を変える検討をしたことがあり、10~18歳の年齢層の親において共通性のある価値志向であることが示唆された。

図 3 職種別の「子どもと毎朝・夜に過ごす時間を増やすために転職しようと思ったことがあるか」
(c) 株式会社日本総合研究所

■子が思春期に達しても「子どもと過ごす時間を大切にしたい」

子どもと過ごす時間の重要性は、他の質問への回答のなかでも見て取れる。

調査では、仕事と生活を分けずに一体とした「満足度」を10点満点で答えてもらった。その平均は6.2点だ。

10点の回答者と0点の回答者で、時間の過ごし方に関する回答内容に違いがあったことの一つが、「仕事のある平均的な1日に、子どもと団らん」することが「よくある」か「ほとんどない」かである(図4)。 「満足度」の高い層ほど、子どもと団らんできている傾向がある。

図 4 生活満足度別の「仕事のある平均的な1日に、子どもと団らん」しているか
(c) 株式会社日本総合研究所

■子どもは自分の仕事をどう思っているのか

では、子どもは自分(親)の仕事のことをどう見ていると感じているだろうか。10~18歳の年齢ならば、「キャリア教育」の一環として、身近な大人の仕事調べをした経験のある子が一定程度はいるはずだ。調査では、子ども本人には質問せず、あくまでも親である回答者自身がどう感じているか、を質問した。

子どもが自分(親)の仕事を「いい仕事だと思っている」と回答した人は、生活満足度10点の層では47.2%となり、0点の層の2.5%に比べて約45ポイント高かった(図5)。

また「わからない」と回答した人は、生活満足度10点の層では14.0%であり、0点の42.4%と比べて約28ポイント低かった。

子どもからポジティブな評価を得ていることと、生活満足度のつながりはありそうだ。

図 5 子どもが自分(親)の仕事をどう思っているか
(c) 株式会社日本総合研究所

■子どもからの評価は「仕事時間の長さ」に連動しない

一方、働く時間に対する子どもからの評価については、「いい仕事」かどうかに比べ、「一概にはいえないのでは?」という結果だった(図6)。「長すぎると思っている」「長いと思っている」という回答と生活満足度の関係には、はっきりとした特徴がみられないからである。

また、満足度が低い層で、子どもがどう思っているか「わからない」という回答が多いことにも注目したい。ここでも、日ごろのコミュニケーションの密度が想像できる。

図 6 子どもが自分(親)の働く時間をどう思っているか
(c) 株式会社日本総合研究所

■「子育て支援」に続く「子どもと話す機会づくり」も

筆者らは、調査を設計するに際して、企業と意見交換をした。その際、「労働時間を減らしにくい部署でも、満足度が高いことがある」や、「労働時間関連の指標はよいのに、満足度が低い部署がある」といった声を聞いていた。

今回の調査では「子どもからどう見られているか」というレンズを入れてみたわけだが、子どもと親との関係でも、長い時間過ごせばよいというわけではなく、お互いにメリハリの利いた、必要なコミュニケーションができれば満足度につながりそうだ、と考えられる。

企業が行う「子育て支援策」というと、どうしても低年齢の子を持つ従業員に偏りがちがだが、その年齢を過ぎたから「ハイ、終わり」ではなく、子どものもつ特徴によってさまざまな個別事情がありうる。

企業が、従業員のことを「子どもとの関係」も含めて理解し、子どもと仕事について話す機会が増えていけば、ひいては、子ども自身にとってもキャリア観の形成や、自分の進路選択において意見を持つことの一助につながっていくことが期待できる。

また「子どもが意見を言える」ことは、子ども自身の権利の一つでもある。

※本調査の詳細はこちらから参照いただけます。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #ウェルビーイング

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