記事のポイント
- パワーエックスは国内で大型蓄電池を製造・販売する
- 同社は日本のエネルギー自給率向上を目指す
- 電気運搬船を2028年頃に運行予定で、電気を海上輸送する
パワーエックスという大型蓄電池の発電システムを手掛けるスタートアップ企業が、12月に東京証券取引所の新興企業向けグロース市場に上場した。国産エネルギーの推進で日本のエネルギー自給率の向上を果たし、国際情勢などでエネルギーが安定的に確保できない問題に対処する。2028年ごろには電気運搬船を運行予定だ。(経済ジャーナリスト・海藤秀満)

■グロース市場に上場したパワーエックスとは
パワーエックスは2021年に設立された、産業用の大型蓄電池を製造・販売するスタートアップ企業。創業者は、高校生でIT企業を起こし、衣料品大手ZOZOの最高執行責任者(COO)を務めた伊藤正裕氏。
主要製品はコンテナ型の定置用大型蓄電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)Mega Powerで、容量は最大2742kWh。国内のコンビニ店舗や郵便局、物流施設、電力事業者などに導入されている。太陽光発電で発電した電気をため、電気使用料がピークの時間帯や夜間に効率的に使用し、非常用電源としても活用できる。
Mega Powerシステムと組み合わせたEV(電気自動車)充電器の急速充電ステーションも展開し、空港や大型複合施設、病院などに導入されている。

■国内生産にこだわる
パワーエックスの蓄電池は、岡山県玉野市の製造工場で生産する。同社は、国産のエネルギーを推進することで、海外からの供給依存に頼らない持続可能な社会を目指す。
現状、蓄電池は中国製が大勢だが、長期的・安定的に使うためには、国内メーカーによる生産と直接保守まで責任を負うことが大切で、日本の競争優位性維持にもつながるとしている。さらに、蓄電池というハードウエアに加えて一連の蓄電池システムを安全に制御するソフトウエア技術にも強みを持つ。
同社は25年6月、登記上の本社を東京都港区から岡山県玉野市に移した。上場で得た資金は岡山工場の増床などにあてる。
■世界初の電気運搬船の運行を目指す

パワーエックスは2024年に100%子会社の海上パワーグリッドを設立した。同社の蓄電池を複数個搭載した電気運搬船を用いた、海上電力輸送と電力販売を事業とする。本格運行は2028年頃を予定しているが、25年7月には屋久島電工と協力して、屋久島のダムによる水力発電によって得られる電力を種子島など周辺離島に運搬する実証実験を始めると発表した。
海上パワーグリッドは2024年に横浜市とも、洋上風力発電の電気を電気運搬船で輸送する事業の覚書を締結している。
電気運搬船の用途としては、洋上風力発電で得られた電気を蓄電して運搬することが想定されている。洋上風力発電では、沿岸から離れた発電地点から送電ケーブルを敷くコストが課題となる。三菱商事が秋田県沖や千葉県沖で政府公募の事業を落札したものの、建設費高騰による採算悪化を理由に撤退している。電気運搬船なら、発電地点で電気を蓄電して需要地である陸地までの効率的な輸送手段として有望視される。
さらに、大地震など災害時に、近隣の洋上から陸地に電気を供給する用途も期待されている。
島国日本の災害対策にも寄与できるかもしれない。国際情勢が不安定な現在、日本は特定の国にエネルギー供給を頼らない対策が望まれる。メイドインジャパンでの市場競争力が注目される。



