今、ミラーワールドへのとば口で考える

原田勝広
オルタナ論説委員

◆論説コラム

いささか旧聞に属するので恐縮だが、この春、国連の194番目の加盟国として「ミラーワールド」が承認されたという話をご存じだろうか。ミラーワールドというのはAR(オーグメンテッド・リアリティ)、つまり拡張現実が生み出す鏡像世界のことである。第一のデジタル革命がインターネット、第二がSNSだとすると、それに次ぐのが、この第三のデジタル・プラットフォーム、ミラーワールドだと言われている。

まずパソコンで情報をデジタル化し、次に携帯電話、Facebookを使って人々とその関係性がデジタル化された。そして、世界のすべて、人も街も組織も含めあらゆるものが1対1でスキャンされデジタル化される時代、今、われわれはそんな第三の世界のとば口に立っている。だから、ミラーワールドが国連に加盟するのは必然だという説明だった。

ただ、このニュースが流れた時、誰も関心を示さなかった。当然だろう、実はこれ、エイプリルフールの嘘だったのである。ところが、今になって、この加盟話に関心を示す人が増えている。なぜか? コロナ禍のおかげで、遠い先のことだと思っていた異空間世界が現実のものになってきたことを皆が実感したからにほかならない。

普通の人にとって、それはパラダイムシフトというよりほとんどタイムスリップに近い劇的な体験だったに違いない。満員電車で通勤していたのに在宅勤務。会議室でのミーティングはオンラインに。セミナーも飲み会もZOOMである。ディスプレーの向こう側に上司もいるし同僚もいる。確かに存在はしているのだが、それはデジタル化したもうひとつの現実なのである。

学校のオンライン授業も増えたし、オンライン診療も暫定的に規制が緩和された。レストランに行けないのでテイクアウトでも頼もうかと思うと、これもネットだ。パソコンで懐かしい映画を見ながら、「ちょっと前までDVDを借りていたのに」と不思議に思い返す。デジタル美術館も人気だ。家に閉じこもったまま、ディスプレーの中で、仕事も勉強も、遊びさえもできてしまう。まるで「つぎの瞬間、アリスは鏡を通り抜けて、鏡のなかの部屋へぴょんと飛びおりました」とルイス・キャロルが「鏡の国のアリス」で描いた鏡像世界そのものである。

いま、コロナの時代を体験した人たちのミラーワールド国連加盟についての意見はおおむね好意的だ。

「国際外交の枠組みを変えるべき時。ミラーワールドの国連加盟はフェイクだとわかっていてもわくわくする」
「オシャレだし、世の中、こうあるべき、こうだったらいいのにな、というお手本みたいな話」
「領土を持たないミラーワールドという国家へ人が移動して、本来の国と二重国籍となる話が現実味を持ってきたと思う」

―――といった具合だ。

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原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

2020年6月4日(木)16:33

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