なぜ、世界は、生命論的な文明に向かうのか――田坂広志 オルタナティブ文明論 第2回

このエントリーをはてなブックマークに追加

田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)

 

第1回においては、東洋の生命論的な文明が復活し、西洋の機械論的な文明と融合していくと述べた。

では、なぜ、これからの時代、東洋の生命論的な文明が復活してくるのか。

それは、古く懐かしいものへの、単なる「復古」ではない。

実は、西洋の機械論的文明を牽引してきた「科学」そのものが、これから、生命論的な世界観へと回帰していくからである。

では、それは、どのような科学か。

「複雑系の科学」である。

いま、現代科学の最先端では、「複雑系」(complex Systems)や「複雑性」(complexity)をテーマとした学際的研究が進められている。その研究を牽引しているのが、三人のノーベル賞科学者によって設立された「サンタフェ研究所」。米国ニューメキシコ州にあるこの研究所には、世界中から様々な分野の研究者が集まり、自然、社会、人文科学、すべての領域を貫く、「複雑系」の学際研究を進めている。

では、「複雑系」とは、何か。

その本質を語った言葉がある。

文化人類学者ベイトソンの言葉である。

「複雑なものには、生命が宿る」

この言葉通り、自然、社会、人間を含むすべてのシステムは、その内部での相互連関性が高まり、複雑性が増大していくと、「生命的システム」としての性質を強めていくのである。例えば、自己組織性、創発性、共鳴、相互進化、生態系の形成など、そのシステムが、あたかも「生命」を持っているかのような性質を示し始める。

例えば、人間も、数多く集まり「集団」を形成すると、個々の人間の心理とは全く別な「集団心理」が生まれ、あたかも、その集団全体が、一つの「人格」を持っているかのような挙動を示すようになる。

また、社会も、その中に「市場」が形成されると、そこに自然に、ビジネス生態系や商品生態系と呼ばれるものが形成され、誰が意図的に操作するのでもなく、自然に秩序が生まれ、自己組織化や創発が起こる。

このことは、古くは「神の見えざる手」というアダム・スミスの言葉に象徴されており、最近では、政府が人為的に標準を定めなくとも、市場競争の中から自然に製品の標準が生まれてくる「デファクト・スタンダード」という言葉に象徴されている。

そして、自然においても、個々の生命や生物が集まり、一つの「生態系」を形成すると、それら全体が、内部の環境を一定に保つ「恒常性維持」(ホメオスタシス)や全体として一つの方向に進化していく「相互進化」の性質を持つようになるなど、それ自身が、あたかも「一つの巨大な生命体」のような性質を示し始める。

実は、近年注目される「地球とは一つの生命体である」という「ガイア思想」は、地球全体が「高度な複雑系」を形成していることから生まれてくる思想に他ならない。

このように、西洋の機械論的文明を象徴する最先端の現代科学そのものが、いま、「生命論的な世界観」へと回帰を遂げようとしている。そして、その向かう先には、なぜか不思議なことに、東洋の生命論的な文明の「智恵」が待ち受けている。

例えば、仏教思想の「山川草木国土悉皆仏性」という言葉。それは、世界のすべてが「生命」を持つという思想。しかし、それは、まさに、いま「複雑系の科学」が向かいつつある世界観に他ならない。

されば、その先には、何が待ち受けているのか。次回、そのことを語ろう。

※本記事は、2008年6月発行のオルタナ8号に掲載されたものを転載したものです。

プロフィール:

たさか・ひろし 74年、東京大学卒業。81年、同大学院修了。工学博士。87年、米国バテル記念研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンク(www.sophiabank.co.jp)を設立。代表に就任。複雑系の科学について詳しく知りたい方は、著者の『複雑系の知』(講談社)を。

2011年10月2日(日)12:19

alternaショップ
ページの先頭に戻る↑