「議論が日本を復活させる」夢を信じて−社会を変えた小さな組織「言論NPO」設立10年

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言論NPO代表 工藤泰志氏

「言論の力が弱っている。民主主義の危機だ」。こうした思いを抱いたジャーナリストの工藤泰志氏が立ち上げた「言論NPO」(東京・中央区)が2011年11月に設立10年を迎えた。

インターネットを使い、知識人から市民まで、さまざまな人が語り合う言論の場をつくりあげる取り組みだ。日中の対話、そしてマニフェスト評価など、工藤氏と参加者の活動によって、小さなNPOが社会を変える大きな成果を上げた。その歩みから「言論の可能性」が見えてくる。

■小さな組織が「マニフェスト評価」を定着させる

工藤氏は53歳。政治・経済の取材記者で、2001年休刊したオピニオン誌「論争東洋経済」の元編集長だ。当時から今でも続く出版不況の中で言論専門誌の商業販売に限界はあったが、「議論の場」を誰もが求めていることを感じた。

「公共性を有した質の高い言論は、欧米でNPO、財団から、地域社会の集会まで広がって定着している。その場をつくりたかった」。そこで徒手空拳のままNPOを立ち上げた。

あるのは工藤氏とスタッフの熱意だけ。「自慢できることではないが、私はお金とつきあうことは下手だ」(工藤氏)。それでもまた財界人から一般市民、企業まで会員は約200人、さらにイベントごとに寄付が集まり運営されている。

「志のある人々の期待を背景に何とか活動ができる。支援者の気持ちを必ず活動に活かす」と、工藤氏は活動する。

10年努力を続けたことで、小さな組織が社会を動かした。一つの注目される活動は「政党評価」だ。今では定着した「マニフェスト」という言葉。これは10年前から、言論NPOが訴えてきた仕組みだ。

それによって政治家、政党、既存メディアが少しずつ動き、メディアも選挙報道で言論NPOの調査や議論を参考にした。10年前の新聞の政治報道は「政局」ばかりだったが、言論NPOを通じた市民の声が「政策報道」を、多少重視するようにさせたのだ。

■    共産中国で史上初の西側メディアの世論調査を実施

もう一つの注目される活動は、「日中対話の推進」だ。2005年に吹き荒れた中国の反日デモ。「中国の人々のナマの声が分からない」。危機感を抱いた工藤氏は、中国に乗り込んだ。すると当局者は市民の暴走に困惑していた。国民が何を考えているのか、同国政府も分からなかったのだ。

「世論調査が必要だ」。渋る中国のメディアと政府の関係者を説き伏せ、言論NPOは日中関係の世論調査を実施。このような調査を、共産党政権下の中国で西側メディアが行うのは初めてだった。すると半数の中国人が「日本は今でも軍国主義」と、不正確な情報を思い込んでいることが分かった。

「対話をして相互理解を深めなければならない」。工藤氏の呼びかけで日中の政治家、メディア、有識者が集まる「北京−東京フォーラム」が2006年から開催されている。両国で交互に開催。11年には北京で7回目の対話が行われた。西側諸国に開かれた中国の声が伝わる場が少ないことから、国際的な注目を集めるイベントに成長した。

■日本再生の「言論インフラ」への成長を目指す

工藤氏は言論NPOを「もっと成長させる」と、夢を語る。言論NPOは有識者間で健全で質の高い議論をする舞台と、日本の各地にいる志と知恵を持つ市民の議論をつなぐ、2つの舞台を今年から構築する予定だ。

「対立ではなく、一致点を探すのが健全な議論。それは民主主義を強くする。そして日本の市民の持つ力や知恵を、政策提言などで形にしたい」と工藤氏は願う。

東日本大震災では、事前の防災、原発事故、復興など、私たち市民が「お上(おかみ)任せ」にしたことに問題があらわになった。

「震災から私たちの得た教訓の一つは『市民が自分たちの社会で起こっていることに対して当事者意識を持たなければならない。自分たちの意識と力で未来を開かなければならない』ということ。そのために市民による健全な議論の場が必要だ。言論NPOはそのインフラに、次の10年で必ずなる」

工藤氏は志を持つ市民の協力を呼びかけている。同団体のホームページは、http://www.genron-npo.net。問い合わせは、電話03(3548)0511。
(オルタナ編集部=石井孝明)

2011年12月14日(水)10:33

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