記事のポイント
- 25年の株主総会で環境4団体は大手金融・商社に対して気候変動対策の株主提案を行った
- 同種の提案は20年のみずほFGへの提案から始まり、当時34.5%の株主が賛成した
- 25年の7社への提案は賛成10%前後で否決、企業だけでなく機関投資家への働きかけも強化へ
2025年の株主総会では、環境4団体の7企業に対する気候変動対策に関する株主提案が注目を集めた。結果は否決となったが、株主提案を行った環境4団体は、「気候変動リスク対応の強化、スチュワードシップ責任を体現することを求める働きかけを継続」と総括した。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)
環境4団体が行った2025年の気候変動対策に関する株主提案についてメガバンクに対する株主対案の顛末を記す。
■気候変動に関する株主提案は、2020年に始まる
気候ネットワークは、2020年3月13日、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほFG)に対し、気候関連リスクおよびパリ協定の目標に整合した投資を行うための計画を開示するよう求める株主提案を行った。
同社が賛同する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に従って、パリ協定の気候目標に整合した投資を行うための経営戦略の計画を開示するよう求めるものだった。
2020年6月25日の株主総会で提案は否決されたが、議決権を有する株主の34.5%が賛成した。
■2025年4月、環境4団体が7企業に株主提案
国際環境NGOのマーケット・フォース、FoE Japan、気候ネットワーク、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、2025年4月15日、金融、総合商社、電力3業界の7企業に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出した。
提出先企業は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほFG)、三菱商事、三井物産、住友商事、日本最大の火力発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力の7社である。
4団体は議案提出の理由を次のように述べている。
「2020年以降、日本の高排出企業や金融機関は、気候変動に関する株主提案に直面してきた。昨年金融機関の株主総会にて決議された議案(気候変動関連の事業リスク及び事業機会の効果的な管理のための取締役のコンピテンシーの開示を求める内容)をはじめ、25%以上の株主の賛同を集めた事例も数多くある」
「今回提出した議案には、当該企業の取締役らを監視する監査委員会/取締役会の役割およびその実態についてより多くの情報開示を求めることで、企業のガバナンス向上を推進する狙いがある」
株主提案の提出先7企業と議案の内容は次の通りである。
MUFG、SMBC、みずほFG
定款の一部変更の件(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示)
定款の一部変更の件(顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示)
中部電力
定款の一部変更の件(監査等委員会の財務リスク監査に係る情報開示)
三菱商事、三井物産、住友商事
定款の一部変更の件(監査等委員会の財務リスク監査に係る情報開示)
定款の一部変更の件(パリ協定に基づく1.5度目標の不達成時に想定される財務的影響に係る情報開示)
環境団体が捉えるメガバンクが抱える問題の要点は以下の通り。
「メガバンクがNZBAから脱退したことで、銀行のネットゼロ公約への本気度が厳しく問われている。銀行は、高排出顧客が信頼性ある移行計画を策定する明確な期限を示す必要がある。加えて、気候リスクを含むリスク管理について、監査委員会による評価の開示を強化することは、ガバナンスの改善と企業価値の向上に不可欠である」
(マーケット・フォース、日本)
「メガバンクの監査委員会は機能してないと考えざるを得ない。メガバンクは信頼できるネットゼロへの移行計画のない企業や、重要な炭素吸収源である熱帯林や泥炭地の破壊及び人権侵害に加担する問題企業に資金提供を続けているからである。MUFGとみずほは現地の先住民族の反対を無視して建設予定の米メキシコ湾岸のリオ・グランデLNG施設に資金提供を行っている」
(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
■メガバンクは「反対」との取締役意見公表
SMBCは2025年5月14日、株主提案に対し、「反対する」との取締役会の意見を公表した。
株主提案の「定款の一部変更の件(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示)」 について反対の理由は次の通りである。
- 本株主提案は、当社が不正行為や気候変動対応等から生ずる財務リスクを軽減するために適切な取組みを行っているかどうかにつき、監査体制並びに監査委員会の評価及びその理由等を監査報告書で開示することを定款に規定することを求めているが、当社はこうした取組みを適切に行っており、必要と判断する範囲で開示している。
株主提案の「定款の一部変更の件(顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示)」 について反対の理由は次の通りである。
- SMBC グループは、気候変動対応を重要な経営課題の一つと位置付け、現行の定款のもと、本株主提案が求める内容(顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示)をはじめ、自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減や、脱炭素社会への移行に向けたお客さまの取組みの支援、またそれらの取組みの開示高度化に従前より真摯に取り組んでいる。
- 提案株主をはじめとする環境NGOや機関投資家等と、気候変動対応に関する開かれた対話を継続的に行っている。
- 2024年4月には、環境・社会に関するお客さまの実態把握や移行計画に対する評価、人権デューデリジェンスを統合した「環境社会審査」を導入し、お客さまの移行計画評価も踏まえたリスク評価を実施する体制を整備している。
■議決権行使結果は否決
メガバンクに対する株主提案の内容と議決権行使結果(株主の支持率)は次の通りだ。
監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示: MUFG(6.80%)、SMBC(15.22%) 、みずほFG(11%)
顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示: MUFG(8.94%)、SMBC(14.79%)、みずほFG(10%)
この結果について、4団体は7月4日、プレスリリースを発表し次のように総括した。
「今年の決議結果からは、多くの投資家が該当企業に対して気候リスクに対する十分に説明責任を求めているとは言えず、私たちは投資家による気候変動リスクへの認識状況に対しても懸念を強めている」
「金融機関には昨年同様の株主提案が提出されているが、みずほでは、実質的な改善がみられない中、賛同率が昨年の半分程度になっている」
「資産運用会社の多くが気候リスクを重視しているかどうか、疑問が残る結果となった」
「株主提案は(全て)否決されたが、提案対象企業に対しては気候変動リスク対応の強化を、機関投資家に対してはスチュワードシップ責任を体現することを求める働きかけを継続して行っていく」