欧州で進むESGと金融の統合、「中小企業にも広がる」と有識者

記事のポイント


  1. サステナビリティ領域の欧州有識者に、2026年の欧州でのサステナトレンドを聞いた
  2. 「ゲームチェンジャーになる」動きとして挙げたのが、「ESGと金融の融合」だ
  3. ESGが資金調達時の条件にも組み込まれ、中小企業にも広がりつつあるという

サステナビリティ領域での草分け的な有識者の一人、欧州CSE社のニコス・アヴロナス社長に話を聞いた。2026年の欧州でのサステナビリティ・トレンドとして、アヴロナス氏が、ゲームチェンジャーになる革命的な動きとして挙げたのが、「ESGと金融の融合」だ。EUタクソノミーやSDFR(持続可能な金融開示規則)施行を背景に、資金調達時の条件にもESG基準が組み込まれ、中小企業にもサステナビリティの取り組みが広がりつつあるという。(聞き手:オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

ニコス・アヴロナス氏 (Nikos Avlonas)
CSE社(センター・フォー・サステナビリティ・アンド・エクセレンス)社・創業者兼代表取締役社長

アヴロナス氏は、企業のサステナビリティと、ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業家)の領域で、これまで数々の受賞をしてきた、サステナビリティ領域の草分けの一人だ。世界30カ国で事業を展開するCSE社は、企業向けコンサルティングサービスのほか、サステナビリティ研修プログラムを90ヵ国で実施し、これまでに1万人超のサステナビリティ専門家を輩出してきた。日本での研修プログラムはサステイナビジョン社が連携して実施する。

■サステナビリティ領域でのAI活用が進む

――2026年を見据え、欧州のサステナビリティ領域で注目している動きがあれば教えてください。

アヴロナス氏:まず、大きなメガトレンドはAIです。AIは「企業内活用」と「地球規模での活用」の2つの側面で重要なトレンドになることは間違いないでしょう。AIを活用することで、これまで非常に時間と労力を要していたサステナ開示などの業務プロセス全体の効率化を図れ、データの収集から分析、そしてより良い報告へとつながります。AIのもう一つの側面は、気象予測ツールなどに統合されることでより優れたソリューションにつながる可能性です。脱炭素、気候変動への耐性などの分野で、実用的な技術ソリューションがAIによって見出されることが期待できます。

――AIは、米国などで、企業のグリーンウォッシュの監視・摘発にも活用されているようですね。

アヴロナス氏:その通りです。欧州と米国では、消費者や投資家を巧みにごまかすグリーンウォッシュ対策にも活用されています。意思決定に影響を及ぼしうる巧みなごまかしは、重大な犯罪であり、規制当局も重点的に取り締まっています。特に投資家をだますとなると、深刻です。欧米ではグリーンウォッシュ対策の法規制の整備が進んでいます。欧州では、欧州グリーンクレーム指令が、当初見込みより少し遅れましたが施行される予定です。

■欧州での「金融とESGの統合」は革命的な動きに

――ほかに注視しているサステナビリティ・トレンドには何がありますか。

アヴロナス氏:極めて重要な動きが、ESGの金融分野への統合です。欧州では、中小企業も含め、資金調達を目指す企業は、最低限のESG基準を満たす必要性が生じています。この動きは、抜本的なゲームチェンジャーとなる変化だと捉えています。大企業だけが、サステナビリティ報告や遵守を求められているのではない、ということです。規模を問わず、どの企業にも求められています。

背景には、「環境的に持続可能な経済活動」を明確に分類する法的な枠組み「EUタクソノミー」や、2021年3月から適用開始となったSDFR(持続可能な金融開示規則)があります。主要金融機関の融資プロセスにESG基準が組み込まれました。高リスクと見なされないように、資金調達が必要な企業はこの基準を満たす必要があるのです。

これは、あらゆる法規よりも重要な意味を持ち、私は「根本的な変化」が起きていると見ています。企業の開示に関連するだけでなく、金融機関はその開示内容を裏付ける証拠の提供も求めているからです。これは世界のサステナビリティ分野において現在進行形で起きている最も重要な革命です。

例えば従業員が50~100人ほどの中小企業であっても、事業資金を調達する場合、ESGに関する質問票への回答が必須となります。この基準への適合度に基づき、企業を「高リスク」「中リスク」「低リスク」に分類し、その結果が、適用される金利に影響したり、場合によっては融資対象から除外されたりすることもあります。

■ネット・ゼロ計画もサステナ報告も第三者保証の流れに

――企業の情報開示についても、大きな動きはありますか。

アヴロナス氏:いくつかあります。企業の情報開示の「透明性」を求める動きです。重要な動きの一つとなるのが、「ネット・ゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」計画に対する第三者検証を求めていく動きです。多くの組織が「ネット・ゼロ」を目指していますが、その実現方法については、透明性が欠けています。つまり、これらの計画が適切か否か、信頼性があるのか否かを、第三者が検証するようになるでしょう。

これは、企業のサステナビリティ情報開示に、第三者保証を義務づける動きも同様です。欧州ではすでに、第三者保証は既に義務化されていますが、米国カリフォルニア州での規制も、第三者保証の義務化の方向に進んでおり、今後、世界中の多くの国々で、報告書に対する第三者保証が義務化されるでしょう。義務化するかどうかは各当局次第ですが、金融セクターやエネルギーセクターなど、特定の分野では義務化に向けた動きが進んでいます。

背景には、自主的な開示に対する信頼性の欠如の問題があります。サステナビリティ報告書の作成に、第三者による監査を受けていないということは、言い換えれば、信頼性のない情報で読者を操作しうることを意味します。

当社は2004年から欧州で外部保証サービスを導入した最初の企業です。過去の情報を表す財務情報と異なり、サステナビリティ報告書のデータは企業の未来を映し出すものです。

――企業の未来を映し出す情報だからこそ、その重要性は非常に高いということですね。

アヴロナス氏:はい。まだあまり多くの方に理解されていないのですが、企業の価値の約8割は無形資産が占めると言われています。過去の状態を表す財務報告の価値は徐々に低下し、今後は未来を映し出すサステナビリティ報告の価値や重要性が高まっていくと予測します。この動きは今後数年間でさらに高まり、2030年までには、財務報告よりも重視される段階に移行すると予測します。

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #サステナビリティ

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