記事のポイント
- 米民主党候補のマムダニ氏が11月5日、ニューヨーク市長選で勝利した
- マムダニ氏は弱冠34歳、インド系アメリカ人のイスラム教徒だ
- ロンドン市長もムスリムであり、世界の大都市トップは多様性にあふれた顔ぶれに
米ニューヨーク市長選で11月4日、民主党候補のゾーラン・マムダニ氏が、下馬評どおり大勝を収めた。弱冠34歳のマムダニ氏は、ウガンダ生まれのインド系アメリカ人でイスラム教徒だ。パリ市はスペイン出身のアンヌ・イダルゴ市長が、ロンドン市はパキスタン系でイスラム教徒のサディク・カーン市長が就いており、世界の大都市のトップには、ダイバーシティにあふれた顔ぶれが並んだ。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子、吉田広子、池田真隆、ニューヨーク=古市裕子)

Photo credit: Kara McCurdy
米ニューヨーク市で11月4日に行った市長選で、民主党の急進左派でニューヨーク州下院議員のゾーラン・マムダニ氏が当選した。
民主党の牙城であるニューヨーク市では、自称「民主社会主義者」として「富の再分配」を公約したマムダニ氏と、民主党の予備選で敗れたアンドルー・クオモ前ニューヨーク州知事とが、事実上の一騎打ちとなっていた。
マムダニ氏は、ニューヨーク市史上初のムスリム市長であり、初の南アジア系市長となる。史上最年少での市長就任でもある。
マムダニ氏は1991年10月、ウガンダのカンパラでインド系の家庭に生まれ、映画監督の母と文化人類学者の父のもとで育った。7歳のとき家族とともに米ニューヨーク市に移住。2014年に米ボウディン大学でアフリカ研究の学士号を取得し、同校初の「パレスチナの正義を求める学生の会」を設立した。2018年に米国市民権を取得している。
その後、地域活動家として住宅差し押さえ防止や貧困支援に取り組み、2020年11月にニューヨーク州議会下院選挙で初当選した。以降、再選を経て、2025年の市長選に立候補した。
マムダニ氏が訴えたのは、「家賃凍結」「無料バス・保育」「富裕層課税強化」など、生活に直結する政策だ。急騰する家賃と物価に苦しむ市民にとって、「暮らしを守る市政」は実感のあるメッセージとして広まった。
マムダニ氏は「Halalflation(ハラルフレーション)」という造語を生み出し、TikTokなどのSNSで発信してきた。ニューヨークの家賃や食品価格の高騰について、「信仰に関係なく、すべての人にとってつらい現実になっている」と訴えている。
クイーンズやブルックリンを中心とした移民・若年層の動員が顕著で、ニューヨーク市長選としては異例の高投票率を記録した。前市長エリック・アダムズ氏の捜査問題や、クオモ元知事のスキャンダルによる既存政治への不信も、変革を求める市民心理を後押ししたようだ。
「市をもっと公平に」「誰のためのニューヨークなのか」という問いかけが、マムダニ氏の言葉に重なった。
マムダニ氏は勝利演説で「政治の暗雲が立ち込めるこの瞬間、分裂と憎悪を煽(あお)って私たちを対立させる者たちを、私たちは決して許さない」と力を込めた。
「ニューヨークは光となるだろう。ここでは、移民であれ、トランスジェンダーコミュニティの一員であれ、ドナルド・トランプが連邦政府の仕事から解雇した多くの黒人女性の一人であれ、食料品価格が下がるのを待ち続けるシングルマザーであれ、あるいは追い詰められた状況にあるその他の人々であれ、私たちは愛する人たちのために立ち上がることを信じている。あなたがたの闘いは、私たちの闘いでもある」(マムダニ氏)

Photo credit: Kara McCurdy
■トランプ勢はマムダニ氏に猛反発
ゾーラン・マムダニ氏について、ニューヨーク・タイムズ紙は10月14日、「思いもよらないほど、不敵で、(今のところ)止められない、ゾーラン・マムダニの台頭」との特集記事を打ち、「その主張には明快さがあり、ほとんどの民主党政治家とは鮮明な対照をなしている」と紹介した。
イスラム教徒としての信仰を公に表明し、ガザへの支援を訴え、移民の擁護に積極的に立ち向かう姿勢も示した。こうした姿勢が、多くのニューヨーカーの共感を呼び、支持基盤を固めた。
一方で、「この街が急変するなら、他の選択肢も考えねばいけない」と話したのは、マンハッタン在住の年配資産家だ。
若者の支持が顕著だった一方で、「急進的な政策が経済を不安定にするのでは」と懸念する声も少なくない。
マムダニ氏は、ニューヨーク市民が苦悩する高額な家賃や食料品価格に焦点を当て、ニューヨーク市の上位1%の富裕層に対する増税を公約に掲げた。これら富裕層とはまさに、これまで民主党に大口の献金をしてきた人たちだ。
英紙デイリー・メール(11月3日付)は、マムダニ氏が当選した場合、最大約200万人の市民が「市外移住を検討または予定している」とする世論調査を報じた。 ニューヨーク・ポスト紙もこれを引用し、特に年収25万ドル(約3800万円)超の高所得者層に流出傾向があると伝えた。ニューヨークでは上位1%の所得層が市税収の半分近くを担っており、もしその層の流出が進めば、市の財政への影響は深刻であるとみられている。
トランプ大統領やその支持層である富裕層は、クオモ氏の支持に回った。暗い表情をしたマムダニ氏の映像とともに「彼はあなたが思うような人物ではない」と発信するテレビ広告を流し、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は数週間にわたって社説で、「ニューヨークよ、警告する」といった論調のマムダニ氏批判を繰り返した。
トランプ大統領は4日、「(マムダニ氏に投票するユダヤ系有権者は)愚か者!!!」と、自身のSNSに投稿し、マムダニ氏が勝利すれば補助金を削減するとの圧力もかけた。
■マムダニ氏、若年層やLGBTQからも支持集める
マムダニ氏を支持したのは、生活費の高騰に苦しむ若年層や労働者層だけではない。LGBTQからも支持も集めた。
ニューヨークはLGBTQの権利においても全米をリードしてきた都市だ。マムダニ氏は、2021年に初めて下院議員として出席した議会で、「トランスジェンダーであることによる路上立入禁止法」の廃止を支持し、その後もLGBTQの法的保護に回った。
一方、クオモ氏自身は2021年に、州職員を含む11人の女性へのセクハラ行為が判明し、州知事を辞職した。このスキャンダルは、市長選で最も重要なトピックスではなかったが、クオモ陣営がマムダニ氏の「経験不足」を批判する中、「経験不足は誠実さで補う。だが(クオモ側の)誠実さの欠如は経験では決して埋め合わせできない」と反論した。
■「初のムスリム市長」が持つ意味
■バージニア州では初の女性ムスリム副知事誕生も

