オルタナ総研統合報告書レビュー(47):日本ペイントホールディングス

記事のポイント


  1. 日本ペイントのミッションは、「MSV(株主価値最大化)」である
  2. 同社は、同社への投資魅力を明快に示すことを目的に統合報告書を制作する
  3. MSVの実現に向けては、「EPSの最大化」「PERの最大化」を追求する

「日本ペイントはなぜ、投資家にとって魅力的な投資先なのか?」 同社は、こうした問いを自ら投げ掛け、同社の投資魅力を明快に示すことを目的とし、投資家視点を確認しながら統合報告書を制作しています。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)

日本ペイントホールディングスは「統合報告書2025」において、「日本ペイントはなぜ、投資家にとって魅力的な投資先なのか?」と自ら問いを投げ掛け、投資家視点で制作しています。

同社は、経営上のミッションを、株主価値最大化(MSV:Maximizing Shareholder Value)と掲げ、その定義や具体的取り組みを次の5点に示しています。

1.経営上の唯一のミッションが「株主価値最大化(MSV)」である。

 MSVとは、顧客・取引先・従業員・社会など、全てのステークホルダーへの責務を⼗分  に果たした上で、残存する価値を最大化し、株主に報いることで、株主価値の創造を上限なく追求する。

2.MSVの実現に向けて、「自律・分散型経営」を採用している。

各地域・事業の現場における迅速で柔軟な判断を可能にする仕組みであり、変化の激しい経営環境において機動力と競争力を発揮できることを目指している。

3.「自律・分散型経営」の中核に据えているのが、「自律性」と「アカウンタビリティ(説明責任)」という価値観である。

各パートナー会社の経営陣に対して、高い裁量権を認めつつ結果に対する アカウンタビリティを求めることで、迅速かつ柔軟で自律的な意思決定を後押ししつつ、グループとしての緩やかな統制を担保している。

4.株価は「EPS(1株当たり当期利益)×PER(株価収益率)」で算出することができるため、MSVの実現に向けては、「EPSの最大化」「PERの最大化」の双方を追求している。

1)既存事業の成長に加え、 最適な資金調達と財務規律の維持によるM&Aを通じて、「EPSの最大化」を目指している。

 2)「当期利益」ではなく「EPS」の最大化を追求するのは、EPSの希薄化につながるような新株発行を伴えば、たとえ当期利益を拡大したとしても株主価値の減失につながりかねないためである。

3)PERは基本的に、EPS向上に対する資本市場からの期待値の反映である。

積極的なIR活動や最適な財務戦略、サステナビリティ対応などと併せて、「良質なM&A」実績を積み上げることで、EPS向上への期待を高め、「PERの最大化」を目指していく。

4)「PERの最大化」は「株価を意識した経営」と同義であり、「経営への信頼」をベースに今後の成長イメージを資本市場と共有し、市場の成長コンフィデンス= PERを回復していく考えである。

5.サステナビリティは、MSVの前提である。

自然資本の保全・多様性の確保などグループを構成するパートナー会社が、サステナビリティ戦略を自律的に策定し事業活動を行う。

同報告書には「PERの最大化」について、「今後10年間のロードマップ(当期利益、M&A関連数値、財務KPIなど)を作成しながら適宜アップデートを重ねています」と記されています。

今後の統合報告書では、「株式市場が見落としがちなポイント」、すなわち、「『EPS積み上げマシーン』 としての日本ペイント」「MSVを純粋に追求する『エゴなき経営スタイル』」 「リスクを抑え、ノーリミットに飽くなき成長を志向」を埋めるためにも、更なる情報開示をされたらいかがでしょうか。

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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