記事のポイント
- 2025年11月、東南アジアのサイクロンに伴う大洪水で1600人以上が亡くなった
- 研究機関は、気候変動が異常気象を激甚化させたことを明らかにした
- 広範な森林伐採と急速な都市化も、異常気象を極端気象へと変えたと指摘した
2025年11月下旬、スリランカ、タイ、マレーシアを襲った猛烈な暴風雨とそれに伴う大洪水で、1600人超が犠牲となった。気候変動と異常気象との関連を分析する研究機関のワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)は12月11日、気候変動が今回の豪雨を強めたとの分析結果を明らかにした。この研究は、急速な都市化と広範な森林伐採も、異常気象を激甚化させ、大災害へと変えた要因だと指摘する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

(c) Indonesian National Board for Disaster Management
■複数の猛烈な暴風雨がアジア広域を襲った
2025年11月下旬、複数の猛烈な暴風雨がアジアの異なる地域を同時に襲った。
11月23日以降、インドネシア北西部のスマトラ島とタイ、マレーシアの間にあるマラッカ海峡付近で、異例のサイクロン「セニャール」が発生した。豪雨と強風に見舞われたスマトラ島では甚大な洪水・土砂災害が発生し、インドネシア国家災害対策庁(BNPB)は12月14日、同国での犠牲者数は1016人、行方不明者数212人、避難者数は62万4670人と発表した。
「セニャール」は、タイやマレーシアなどにも、広範囲にわたって豪雨を1週間降らし、甚大な洪水被害をもたらした。
同時期の11月27日から29日にかけては、サイクロン「ディトワ」がスリランカを直撃し、広範囲にわたって豪雨や暴風をもたらした。洪水や河川の氾濫、地滑りなどの災害が発生し、スリランカ災害管理局(DMC)によると、12月10日現在、死者は639人、行方不明者は203人に上るという。
国連開発計画(UNDP)は、「ディトワ」がもたらした洪水による浸水被害はスリランカの国土の約20%に広がっていると発表した。「サイクロン・ディトワは、長年の経済危機で弱体化した地域を直撃した」とUNDPスリランカの久保田あずさ常駐代表はコメントする。
今回の豪雨によって、少なくとも1600人超が死亡し、今も数百万の生活に影響が出ている。
■気候変動が、暴風雨の強度を高めた
気候変動と異常気象との関連を分析する研究機関のワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)は12月10日(日本時間)、メディア向け説明会を開いた。そして、多数の犠牲者・被災者が出ている痛ましい事態がきっかけに、2つのサイクロン「セニャール」と「ディトワ」について、気候変動の影響の有無と、影響があった場合のその影響度を分析したことを説明した。
分析結果によると、地球の平均気温が産業革命前から1.3℃上昇した現在、サイクロン「セニャール」の被災地域では、人為的な地球温暖化により、5日間の集中豪雨の強度が28~160%、スリランカでは9~50%高まっているという。
また、海面水温についても、この時期の北インド洋は約29℃と、平年値より0.2℃高かったことが判明し、熱帯低気圧の発達に追加的なエネルギーを供給したと説明した。気温上昇により大気中の水蒸気の含有量が増加し、降雨量がより多くなった。化石燃料による温暖化がなければ、海面水温は約1℃低かったはずだったと指摘する。
東南アジアや南アジアでは、モンスーンの雨はこれまでもしばしば洪水をもたらしてきた。今回の研究の筆頭筆者であるオランダ王立気象研究所のサラ・キュー博士は、「この地域ではモンスーンの雨は通常のことだが、異常なのは暴風雨の強度だ」と明言する。
■2階に避難しても命を落とすほどの洪水に
■急速な都市化と森林伐採が被害を大きくした

