記事のポイント
- 25年は第2次トランプ政権の発足でESGやサステナビリティは大きく揺り戻された
- しかし実体経済を動かすビジネスの最前線では、粛々と前進しているファクトがある
- 2026年は「揺り戻しの揺り戻し」が起きるのだろうか
ESGやサステナビリティは2025年、米国での第2次トランプ政権の発足によって、強烈な揺り戻しに遭った。大きな反動を受けて縮こまったように見えるが、実体経済を動かすビジネスの最前線では、粛々と前へと推し進めている。2026年は揺り戻しの揺り戻しが起きるのか。(オルタナ輪番編集長・北村佳代子、吉田広子、池田真隆、オルタナ副編集長・長濱慎、オルタナ編集部・萩原哲郎)

■「トランプ政権はピークアウト」とアル・ゴア氏
2025年11月18日、アル・ゴア元米国副大統領はCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)開催中のブラジル・ベレンに姿を現し、「トランプ政権のピークは過ぎたかもしれない」と発言した。
アル・ゴア氏は、2006年、ドキュメンタリー映画「不都合な真実」を通じて地球温暖化の問題を広く世界に知らしめ、翌年ノーベル平和賞を受賞したことで知られる。
ゴア氏は、ピークアウトを裏付ける出来事が11月ごろから目に見え始めたと語る。 ニューヨーク市長選挙では、弱冠34歳のインド系アメリカ人でイスラム教徒の民主党候補ゾーラン・マムダニ氏が大勝した。ニュージャージー州、バージニア州、ジョージア州の選挙でも民主党が勝利した。
矢継ぎ早に発動してきた「トランプ関税」についても、米最高裁がその合法性に疑問を呈し始めた。最高裁判事9人のうち6人を、政権には有利な保守派が構成しているにもかかわらず、だ。
トランプ大統領の再エネへの攻撃は、電気料金の上昇(2025年9月までに11%増、米政府調べ)として表れた。
米国民はそれを認識しており、ゴア氏は「クリーンテクノロジーは未来だ。トランプは米国の両足を撃ち、21 世紀の主要な経済分野での米国の競争力を損ねている」と非難した。

(c) Rafael Medelima / COP30
■25年は米国発の強い「バックラッシュ(揺り戻し)」に
25年は、世界がトランプ大統領に振り回され続けた1年だった。1月20日の政権発足から11月末までに署名した「大統領令」の数は217件に上る。バイデン前政権では24年通年で19件、第1次トランプ政権の17年でも77件だから、桁違いの多さが際立つ。
パリ協定やWHO(世界保健機関)からの脱退、性別は「男性と女性のみ」とした多様性政策の撤廃、移民に対する規制の強化、そして「トランプ関税」は、日本を始め多くの国・企業が戦々恐々と構え、翻弄された。
25年はSDGs採択から10 年、パリ協定の採択から10年の節目だったが、トランプ大統領は、世界の気候科学を支える米海洋大気庁(NOAA) 気象・気候研究所や、対外援助事業を担ってきた米国際開発局(USAID)を閉鎖し、 国連演説で「地球温暖化はうそ」だと嘯いた。
反ユダヤ主義への対応をめぐってはハーバード大学をはじめとする学術機関と対立し、意に沿わない報道をしたメディアには容赦なく矛先を向け、大統領の意向に反対する人物には圧力をかけて追放した。
言論弾圧・専制国家とも見紛う強引なやり口を前に、米国企業は萎縮し、ESGやDEIの用語を使わない企業も出てきた。以前からの反ESGの動きは、トランプ大統領によってさらに強力になった。
この反動の波は米国だけに留まらず、欧州もCSRD(企業持続可能性報告指令)、CSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令)、CBAM(炭素国境調整メカニズム)などの簡素化を図るオムニバス法案を打ち出した。
金融業界での脱炭素の枠組みは、「ネット・ゼロ保険連盟(NZ-A)」がまず24年に解散した。25年1月には「ネット・ゼロ・ アセット・マネージャーズ・アライアンス(NZAM)」が、同年10月には「ネット・ゼロ・バンキング・ アライアンス (NZBA)」 が活動を停止した。
■実体経済では、脱炭素の動きが進む
しかし、表向きの反ESGの陰で、実体経済を動かす企業の動きは異なる。
気候変動に関する報告を行う企業の数は、この10年で劇的に増加した。CDPによると、14年の4968社が、19年には8361社、24年には 2万2400社以上に達した。
科学的根拠に基づいた環境目標を設定し、SBTi(サイエンス・ベースド・ターゲット・ イニシアチブ)認定を取得した企業数も、23年以降、3倍以上に増え、25年6月末時点で約1万1千社となった。SBTi によると、これら企業の合計収益は世界全体の 25%を占め、時価総額は同 40%以上になるという。
SBTiのデビッド・ケネディCEOは、「野心的な気候アクションは、地球環境に良いだけでなく、企業の競争力や投資家からの信頼を高め、結果的に長期的成長につながる」と話す。
SBTiのアンケートでは、企業の73%が「環境目標の設定は企業戦略全体にプラス」と答えたほか、サプライチェーンや顧客からの要件との整合性(74%)、規制変更への耐性(71%)、業界での競争力(67%)の点でも好影響を確認した。また76%の企業が「投資家から信頼を得た」と資金調達面での効果を認識した。
■サステナ開示が投資呼び込む
■サステナの軽視は長期リスクに
■26年は「バックラッシュのバックラッシュ」に
■世界の89%が気候変動対策求める中、偽情報も暗躍
■ESGのけん引、人権とともに
■2026年のサステナ重要キーワード

