三重大・立花義裕教授に聞く、「二季」時代に向けた適応策 

記事のポイント


  1. 日本の四季が失われ始め、夏と冬だけになる「二季」が流行語に選ばれた
  2. 私たちの生活は「二季」時代の到来に向けてどう適応すべきか
  3. 言葉の生みの親である三重大学・立花義裕教授に話を聞いた

日本の四季が失われ始め、夏と冬だけになる「二季」という言葉が、2025年の流行語大賞を受賞した。言葉の生みの親・三重大学大学院の立花義裕教授は、「流行語に選ばれたこと自体が、日本人の気候変動に対する意識の変化の表れ」だと語る。「二季」の時代に向けて、私たちの生活はどう適応すべきか、立花教授に話を聞いた。(聞き手・オルタナ輪番編集長=北村佳代子、吉田広子)

立花義裕(たちばな・よしひろ) 
三重大学大学院生物資源学研究所、地球環境学講座・気象・気候ダイナミクス研究室教授

1961年北海道生まれ。北海道大学大学院理学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。小学生のときに、雪の少ない地域や豪雪地域への引っ越しを経験し、気象に興味を持つ。「羽鳥慎一モーニングショー」を始め、ニュース番組にも多数出演し、異常気象や気候危機の情報を精力的に発信。北海道大学低温科学研究所、東海大学、ワシントン大学、海洋研究開発機構等を経て、現職。専門は気象学、異常気象、気候力学。2023年三重大学賞(研究分野)、2024年東海テレビ文化賞、日本気象学会理事、日本雪氷学会理事。著書に『異常気象の未来予測』(2025年7月、ポプラ社)など。

——立花教授が気候変動に対する危機感を感じ始めたのはいつ頃でしょうか。

最初は2010年頃です。そしていよいよ「本当にヤバい」と思ったのは3年くらい前です。

2010年頃より前は、理論的に温暖化で大変になることをわかってはいても、実際に体感するほどでもありませんでした。そんな時に「20年後に温暖化でこうなるだろう」と言っても、なかなか人の行動は変わりません。人間、痛い思いをしないとダメなのです。

その痛みを少し感じたのが2010年頃です。2010年以降、猛暑が続き、異常気象も多発するようになりました。私も世の中に積極的に情報発信をし、皆さんの危機意識を高めなければいけないと思いました。

特に日本は、世界の中でも最も異常気象が起きやすい国です。夏の猛暑は東南アジアよりも暑く、熱帯並みの豪雨も降り、それが夜まで続く。そして冬には寒波が来て、豪雪となる。気候変動に伴う災害が、世界で最も多く起こりやすい国なのです。

「日本だけ温暖化対策を頑張っても中国や米国が頑張らなければ」と言う声も聞こえますが、責任を他国になすりつけている場合ではありません。異常気象の影響を最も強く受ける国だからこそ、世界に先んじてCO2排出量の削減など、行動変容を起こす世界のトップランナーにならなければいけません。

——「行動変容」の視点では、日本人の気候変動に対する意識をどう捉えていますか。

「二季」という言葉が今年、流行語大賞に選ばれました。これは裏を返せば、それだけ皆さんが地球温暖化に苦しんでいるということ、日本に住んでいる皆さんが「おかしいぞ」と気づき、意識が変わったことの表れでもあります。10年前に、この言葉が選ばれることはなかったでしょう。

温暖化問題が自分事になった人が増えれば、それは世論を形成する力になります。気候変動を意識する市民が増えると、政治家は世論を気にしますから、温暖化対策を主張する政治家も増えていくでしょう。気候変動対策にしっかり向き合わなければ、選挙で選ばれなくなるからです。

日本の政治や政策が温暖化問題に対して本気モードになるには、まずは私たちの世論が変わる必要があるのです。

もう一つ、すぐには変化として見ることは難しいかもしれませんが、教育もとても大事です。異常気象や温暖化に伴う様々な問題点を、しっかりと学校教育で取り上げてほしいと思います。

日本では小・中・高の社会科で「気候」は習いますが、「気候変化」については習わないのです。学ぶ機会が皆無ではないのですが、系統的に説明されていないためわかりにくく、学校で気候危機問題についての授業はほとんど行われていません。

ですが地球温暖化は、大学の推薦入試・面接など、時事問題などでも良く問われます。先生方や保護者の皆さんの意識次第で、気候教育の在り方も変わってくると思います。

——「二季」の時代に、私たちはどう適応していくべきでしょうか。

(立花)夏の気温は40℃超えが当たり前となります。冬は、平均気温は上昇しますが、局地的に豪雪となる地域が、日本海側に限らず太平洋側にも広がっていきます。

温暖化やそれに伴う豪雨・豪雪などの異常気象に耐えられるよう、インフラ面での整備は喫緊課題ですし、企業でも特に屋外での仕事が必要不可欠な業種では、労働者を守る施策が急務です。

屋内であっても、工場などでは働く人にやさしくない設計のところも多くあります。古いエアコンを買い替えるだけでなく、窓・壁・天井など、建物の断熱性能を上げることも重要です。初期投資はかかるかもしれませんが、働く人の環境が改善し、電力使用量の減少に伴いCO2排出量や電気代が減り、結果的に得をする形になると思います。

——著書『異常気象の未来予測』の中では、スポーツイベントや祭りなどは気候が穏やかな4月開催がベストだとご提案されていましたね。

(立花)はい。行事の開催時期の見直しだけでなく、日々の生活時間を2時間前倒しにずらすことも検討した方が良いと提案しています。

サマータイム制が導入できればそれが一番良いのですが、過去に一度、日本での導入が検討されたときは、交通や金融機関などコンピュータシステムで起こる障害への懸念が大きく、実現には至りませんでした。サマータイム制を導入すると年に2回、時計の針を動かす必要があります。生活時間の前倒しであれば、時計を動かすのは1度きりで済みます。

具体的には、9時出勤ではなくて7時出勤にする。朝早く始動すれば、終業時間も早くなります。冬のこの時期、福岡などは朝8時台でも薄暗いのですが、薄暗いうちに働き始めることは問題になっていません。また、自動車の交通事故は夕方の発生が最も多いですが、2時間前倒しにすれば、交通事故の発生件数は間違いなく減るでしょう。

涼しい時間に働けば夏の電力消費は今より減り、企業は電気代・CO2排出量ともに削減できます。国全体を動かすのが難しくても、クールビズなどのように、公的機関が先頭に立って実施くだされば、浸透しやすくなります。

要は、このくらい生活を大きく変化させないと、「やっていられない」という時代が、もう間もなく来る、ということです。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #気候変動

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