温暖化で北上する南方系サンゴ、相模湾に: 水産資源にも影響

記事のポイント


  1. 南方系のテーブル状サンゴが、神奈川県横須賀市の佐島漁港で発見された
  2. 温暖化の進行で北上するミドリイシ属サンゴの、国内最北を記録した
  3. 「今後、関東沿岸の水産資源は大きく変わる」と専門家は話す

南方系のテーブル状サンゴが2025年7月、神奈川県横須賀市の佐島漁港で発見された。サンゴは海洋環境の指標となる生物だ。温暖化の進行でこれまでも南方系ミドリイシ属サンゴの北上は国内で確認されていたが、佐島は、最北限での分布を示す公式記録となった。サンゴの専門家で、今回の記録報告を発表した立教大学環境学部開設準備室の大久保奈弥教授は、「今後、関東沿岸の水産資源は大きく変わる。サンゴを守るかどうかは地元が決めること。環境問題の答えはひとつではない」と話す。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

今回報告された日本最北限のテーブル状ミドリイシ属サンゴ。
現在、新江ノ島水族館で生きたまま水槽内で展示されている
(写真提供:新江ノ島水族館 園山貴之氏)

■南方系サンゴの北上、相模湾にも

立教大学環境学部開設準備室の大久保奈弥教授と宮崎大学農学部の深見裕伸教授のグループは昨年12月、神奈川県横須賀市の佐島漁港で発見されたテーブル状サンゴについて、形態学的および遺伝学的にミドリイシ属のエンタクミドリイシ2群体、ミドリイシ1群体と同定したことを、日本サンゴ礁学会の英文誌『Galaxea, Journal of Coral Reef Studies』に発表した。

温暖化の進行に伴って、南方系サンゴの分布が北に拡大していることを示す重要な記録報告だ。今回報告された国内最北限のテーブル状ミドリイシのひとつは現在、新江ノ島水族館(神奈川・藤沢)の水槽内で生きたまま展示されている。

これまでの北限記録は、太平洋側では千葉県館山市波左間、日本海側では長崎県対馬市だった。今回の佐島で発見されたサンゴ群体は、それよりさらに高緯度で、相模湾を含む関東沿岸に、サンゴの分布が拡大していることを示す。

現地ダイバーによると直径60cmに達するテーブル状サンゴも確認されている。これらのサンゴは少なくとも約10〜30年にわたって相模湾の冬を越えて生存してきたと推定されるという。

今回この論文を発表した、サンゴの専門家・大久保奈弥教授に話を聞いた。

大久保奈弥(おおくぼ・なみ)立教大学環境学部開設準備室 教授
専門はサンゴの生物学。立教大学文学部ドイツ文学科卒業後、東京水産大学大学院でサンゴの移植と繁殖生態に関する研究を始め、修士(水産学)を取得したのち、東京工業大学大学院で博士(理学)を取得。日本学術振興会特別研究員(京都大学)、優秀若手研究者海外派遣事業(オーストラリア国立大学)、慶應義塾大学特任助教、東京経済大学全学共通教育センター教授を経て、2025年より現職。サンゴ(イシサンゴ目)の発生様式が2つのグループに分かれることを発見し、遺伝子配列のデータと合わせて2つの亜目を新設、その成果が公益財団法人日本動物学会藤井賞・ZS Awards (2017)を受賞。

■サンゴの確認は、地域の生活を変える

――今回の、相模湾での南方系サンゴの水揚げを率直にどのように受け止めましたか。

(大久保)神奈川県内でも真鶴にサンゴがいるという話は聞いていたので、予想はしていました。やっぱり入ってきたか、と。でも実際に漁師さんが水揚げしたのは初めてでした。

昨年夏に、行きつけの寿司澄風(神奈川・藤沢)さんから、「サンゴが揚がってますよ。奈弥さん、要りますか」とLINEで写真が送られてきたんです。私は家の水槽でサンゴを飼っているので、「欲しいです」と言ったら、お寿司屋さんの大将がわざわざ、漁師さんがサンゴを提供した佐島の魚屋さん「丸吉商店」(神奈川・横須賀)から私の自宅にまで持ってきてくれました。

形態とDNAの配列を解析したところ、南方系ミドリイシ属という、いわゆる「南方系のサンゴ」と同定できました。公的記録ではこれまでの最北限です。

すぐに論文化し、3つあるうちの一番大きいテーブル状サンゴ(最大直径35センチ)を新江ノ島水族館(神奈川・藤沢)にあげて、登録番号も付けました。地元・神奈川新聞にお知らせして、大学からはプレスリリースを出してもらいました。

理由はただ一つです。サンゴが入ってきたということは、これからの漁業や観光など、地域の生活が変わってくるからです。行政の方に早めの対策を求めたい、との思いでした。

研究者として、社会に還元するということは普段から意識していますので、発見して終わりではなく、皆さんの生活が変わっていくということをお知らせする必要がある。ありがたいことに、神奈川新聞が1月7日の朝刊1面トップ記事として扱ってくださり、日本経済新聞でも報道されました。

沖縄や奄美大島などと違って、神奈川や東京周辺はサンゴと一緒に暮らしてきた地域ではありません。しかし、サンゴは「海のゆりかご」ですから、新しい海域に定着すると、当然ながらそこに棲む生き物も変わっていきます。

サンゴの北上に伴って漁業対象種が変化するわけですから、沿岸生態系全体の変化を統合的に捉えて資源を活用すべきです。

地球温暖化でサンゴが北上しているというグローバルな視点と同時に、ローカルでサンゴとの共生をどう考えていくのかが問われています。サンゴはこれからどんどん大きくなり、10年もすれば、海面からも「サンゴがあるね」とわかるでしょう。20~30年でかなり増えると思います。

サンゴには大きな経済的価値がありますから、この変化を是非、新しいビジネスチャンスと捉えてほしいです。そして、皆さんに広く知られることで行政が早めの対応に動いてくれることを期待しています。

■サンゴとサンゴ礁が果たす役割は数多

――サンゴが地域経済に与える影響について教えてください。

(大久保)「サンゴ」は動物、「サンゴ礁」は地形、「サンゴ礁生態系」はそこに生き物が棲息した世界を指します。海の生態系でサンゴとサンゴ礁が果たしている役割(生態系サービス)は数多くあり、私たちが食べる魚介類を供給する、それら生き物の棲息場所を形成する、サンゴ礁が天然の防波堤となって、高波を軽減するなどさまざまな役割があります。

サンゴが経済に与える影響については、「経済的価値」と「経済効果」の2種に分けて考える必要があります。サンゴが無料で提供してくれている、高波を軽減するための防波堤を、もしコンクリートなどのグレーインフラで造ったら、どれだけの費用がかかるのか。その価値を試算したものが経済的価値です。

一方、経済効果は、サンゴ礁があることで実際に動いたお金を表しています。例えば、沖縄の八重山地域のサンゴ礁観光・保全の経済効果は、2012年の論文で237億円と算出されています。ホテルなどの観光業とそれに伴う人の雇用なども含まれます。関東沿岸で、もし我々がサンゴと暮らす道を選択すれば、そのような経済効果も期待できるでしょう。

――漁業や観光業など、ビジネスの視点で今後起こりうる変化や考えるべき対策を教えてください。また、関連する業界の企業には、今回の発見をどう捉えてほしいと思っていますか。

■環境変化への迅速な対応がビジネスチャンスに
■「サンゴを守るかどうかは地元が決めること」
■「環境問題の答えは一つではない」
■ブルーカーボンの取り組みは「昔の海」からアップデートを
■「ティッピングポイントを超えた」とされるサンゴの今後は

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動

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