記事のポイント
- 小中高生の自殺者数が25年に523人と、再び過去最高を更新した
- G7のデータを見ると、子どもの自殺率は労働時間の長さと相関がある
- 長時間労働で、子どもにとって安定した家庭環境を確保できない企業社会の歪みがある
小中高生の自殺者数が、昨年に続き25年も過去最高を更新した。日本を含む8カ国のデータから、子どもの自殺率と労働時間の長さに相関関係がある。長時間労働で、子どもにとって安定した家庭環境を確保できない企業社会の歪みがあると考察する。企業は働き方改革を進め、親は子どもと遊ぶ時間を増やそう。(サステナビリティ・ビジネス戦略家=磯貝友紀)

小中高生の自殺者数が2025年に532人と、残念ながら再び過去最多を更新しました。この事実を基に、子供の自殺と労働時間の関係について、考察し、働き方改革がいかに子どもの幸せにとって大切なものか、改めて強調したいと思います。
■子どもの命が問いかける、企業の本当の責任
大人が、自身の人生を生き生きと生きていたら、子どもも生き生きと暮らせる可能性が高い。「子どもの自殺が過去最多」という現実は、私たち大人の社会のゆがみの反映ではないか。その後ろには、「人を活かす」サステナビリティ経営が十分に機能していないという現実があるのではないか。
そのような思いから、本稿をしたためました。
そもそもサステナビリティ経営が目指すものは何でしょうか。それは、地球という限界の中で、すべての人が豊かで、便利で、快適で、幸せな生活を送れるような社会を作ることです。
そのために、企業は、自社のコンピテンシーと社員の能力を最大限に活かすことで、効率的・効果的に価値を生み出し、翻って、しっかりと儲けにもつなげていく。そのようなポジティブ・スパイラルを生み出すことが求められます。
社員の能力を最大限に活かすためには、社員が生き生きと、やりがいを持って仕事に向かうことが重要です。
パーパス経営や人的資本経営は、一人の人間である社員の個性や人生を尊重しながら、企業にとっても最大限のメリットを引き出す、重要な考え方ですし、働き方改革は、そのような理念を具体的な施策に落としこむ、大切な取り組みです。パーパス経営や人的資本経営は、サステナビリティ経営と表裏一体の考え方でもあります。
サステナビリティ経営は、地球と人間と経済が調和した豊かな未来を希求するものです。私たちの未来である子どもたちを絶望から守るために「サステナビリティ経営」の一環としてできることについて、数字も伴いながら検証します。
■大人の自殺率は失業率と相関: 2009年以降、徐々に減少
子どもだけでなく、大人も含む自殺者数の総数は、1998年に急増し、一気に3万人を超え、その後2009年まで横ばい、その後、徐々に減少して、ここ数年は1970年代と同等程度の2万人程度となっています。
1998年はバブル崩壊、山一證券の倒産などの続いた年ですし、2007年のリーマンショックが大きく経済を揺るがし、その後、多くの人が職を失いました。
そこで、下のグラフに示したように、自殺率と失業率を比べてみると、その増減は完全に一致することが見て取れます。大人の自殺は、経済、失業を原因とするものが多いということが推察できます。

(出典:総務省統計局および厚生労働省のデータに基づき筆者作成)
■子どもの自殺死亡率は、2009年以降も徐々に増加
2009年以来、日本全体の自殺率が、徐々に減少してきたのに対して、子どもの自殺は徐々に増加しています。
2024年の小中高生の自殺数は前年から16人増の529人、2025年はそこからさらに3人増え、統計を取り始めた1980年以降で過去最多となりました。
自殺死亡率に関しても、下のグラフからもわかるように、2013年には4.9程度だったのが、2023年には7.5に増加していることがわかります。
バブル崩壊やリーマンショックといった危機的状況が去り、(経済が回復したとはいえないものの)失業率は減少し、それなりに安定した経済状況が確保された、ということは、大人の精神状態が安定し、子どもにとってもプラスの効果がありそうに思います。しかしそれに反して、子どもの心を苦しめつづけているものは何なのでしょうか。

(出典:厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課
「令和5年中における自殺の状況」)
■子どもの自殺死亡率と、大人の労働時間は相関する
その理由としては、受験のプレッシャー、SNSの普及による新しいいじめ、コロナ禍の影響など、様々に考えられます。しかし興味深いのは、大人の労働時間との関係性です。
サンプル数が少ないのですが、G7+韓国の子どもの自殺死亡率を縦軸に、大人の労働時間を横軸にとって、各国をプロットすると下記のグラフのようになります。相関分析を行うと、相関関数は0.67、正の相関が見られます。

私の感覚からすると、カナダの労働時間と自殺死亡率が高いこと、イタリアの労働時間がアメリカと同等レベルという点が意外でしたが、その他は概ね、感覚通りの結果です。
労働時間の長い国は、大人の余裕がなく、子どもと過ごす時間も少なくなります。
子どもにとって安定した家庭環境が確保されず、自己肯定感を育てることができず、いじめや受験などの外部プレッシャーへの耐性が弱まり、自殺が増える、という背景が透けて見えます。
■お父さん、お母さんは、家に帰って子どもと遊ぼう
私は以前、「限られた労働時間で、経済成長を実現するために私たちがすべきこと」と題した問題提起をnoteに投稿しました。日本は、無駄な仕事が多すぎます。
誰も見ない役員会議の資料の添付資料の数字の検証に徹夜したり、会議の直前までフォントや図表の位置を確認したり、それって、子どもを独り、家に置いてまで成し遂げなくてはいけない仕事でしょうか。
こう言うと必ず、「自分が若い頃は、死ぬほど働いて仕事を覚えた」「働き方改革を進めて、日本の競争力が落ちる」という反論をしてくる人が沢山います。こうした反論は、50代以上の男性に多い傾向がありますが、それは全くもっておかしな話です。
そうした人たちが「死ぬほど働いて」きた、その結果が今の日本です。日本の競争力を弱めてきたのは、働き方改革ではないことはあきらかです。
■「一生懸命」ではなく「賢く」働くことが重要に
例えば、1980年頃まで、オランダと日本は一人あたりのGDPがほぼ同じだったにもかかわらず、45年後の今、オランダは労働時間を減らしながら、日本の倍のGDPを達成しています。
働き方改革と経済発展は両立可能なのです。「一生懸命働く」より「賢く働く」ことの方が何倍も重要なのです。
哀しい現実ですが、私たちが身を粉にして行っている仕事の中で、本当に意味がある仕事ってどれくらいあるでしょうか。
人の命を預かるお医者さんなどは別にして、その仕事を徹夜してまで行う必要があるような、そんな重要な仕事はほとんどないのではないかと思います。
この記事を読んだお父さん、お母さんには、パソコンの前を離れて、家に帰って子どもと遊んであげてほしいと思います。そのことが、翻って、自己肯定感の高い子どもを育むことになり、そして、近い未来、彼らがイノベーションの源泉となり、新しく日本経済をけん引していってくれることでしょう。
※この記事は、2025年も子どもの自殺が過去最高を更新したことを受け、筆者が約1年前に綴ったnote「親の労働時間が子どもの命に与える影響~子どもの自殺増加の背景を探る~」(2025年2月2日公開)を、オルタナ編集部にて編集したものです。筆者のnote全文はこちらからお読みいただけます。



