大西 祥世(グローバル・コンパクト研究センター研究員)
以前から多くの日本企業は、労働者の安全確保や、妊娠・出産に関する女性保護を大事にしてきました。最近では、メンタルヘルス対応にも熱心です。
WEPsの原則3は、さらに次のような観点から、女性も男性も心身ともに安心して、持っている能力を十分に発揮することができる職場づくりを求めています。主な柱は、①健康に関する男女で異なる影響への考慮、②職場からのあらゆる暴力の撤廃、③人身取引・性的搾取の廃絶への理解促進です。第一の男女の違いを意識した健康や安全の取り組みには、妊娠・出産への対応以外にも検討の余地があります。
ヤマト運輸は、社員数が約17万8千人の大企業です。そのうち、女性社員が約6万人で、全社員の約34%強です。同社はステークホルダーの一つである労働組合がポジティブ・アクションに積極的に取り組みました。各支部の副委員長に女性を積極的に登用したので賃金や労働時間といった主要な労働問題だけでなく、「女性の働きやすい職場の構築」への改善意見が多くなりました。
例えば、女性社員のいる全事業所での男女別トイレの設置です。会社は団体交渉を通じて重要な課題として受け止め、2011年度までに全事業所で実現させました。ステークホルダーとの協議で課題解決に取り組む企業の姿勢が注目されます。第二は、セクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメントのない職場づくりという経営方針を持つことです。身体的な暴力だけでなく、精神的な虐待などへの対応も必要です。多くの企業が女性の社員の声をもとにこれに取り組んでいます。
第三の人身取引や性的な搾取の廃絶は、企業活動で人身売買された女性労働者を雇用しない、接待等に性産業を利用しない、という内容です。日本の企業では以前はこうした例もあったようですが、万一にもそうした悪しき慣習が残存していないか、繰り返し、全社で、またサプライチェーンも含めて確認することが必要です。