■トップインタビュー
記事のポイント
- ヤンマーは創業以来、農家の仕事を楽にするソリューションを生み出してきた
- 今年、同社は、未来の農地を守るプロジェクトを本格始動した
- 農福連携にも詳しい白藤万理子社内取締役に話を聞いた
1912年の創業以来、「農家の方々の労働の負担を減らしたい」との創業の思いを受け継ぎ、いまや売上高1兆円超の企業に成長したヤンマー。同社は今年、環境再生型農業や営農型太陽光発電などで未来の農地を守るプロジェクトを始動した。農福連携の現場にも詳しい、白藤万理子取締役に話を聞いた。(聞き手=オルタナ輪番編集長・北村佳代子、吉田広子)

写真:宮田昌彦
白藤万理子 (しらふじ・まりこ)
ヤンマーホールディングス 取締役 サステナビリティ推進部長
2000年にヤンマー初の女性事務系総合職として入社。ヤンマー農機、ヤンマーエネルギーシステムなどを経て2020年に特例子会社のヤンマーシンビオシス代表取締役社長に就任。2024年6月から、ヤンマーホールディングス取締役兼サステナビリティ推進部長。育休、育休後の職場復帰、育児時短勤務など、女性活躍のための制度を活用し、ヤンマー第1号となる事例をつくってきた。
■第1次産業で働く方々の仕事を楽にしたい
――気候変動は第1次産業に大きな影響を与えています。ヤンマーでは脱炭素に向けてどのような取り組みを進めていますか。
白藤:当社は、「農家の方々を楽にしたい」という思いで創業し、創業者がディーゼルエンジンの小型化に信念を持って取り組んだ会社です。大形舶用エンジン・小形エンジン、農業機械、建設機械、漁船やプレジャーボート、エネルギーシステム事業、食事業など、いずれも第1次産業に深く関わる事業フィールドで事業展開をしています。
一方、私たちは、ディーゼルエンジンという化石燃料を使用する製品によって、地球環境に少なからず影響を与えてきた存在でもあると認識しています。気候変動が進む中、企業として環境に対する責任をしっかり果たすために、「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を策定し、2050年に「環境負荷フリー」、「GHG(温室効果ガス)フリー」の企業を目指して取り組みを進めています。
スコープ1と2では2030年のカーボンニュートラルを目指していますが、課題はスコープ3の排出削減です。特にカテゴリー11の「販売した製品の使用」による排出は、当社全体の排出量の9割以上を占めます。少しでも化石燃料を減らして代替燃料に置き換え、各業界のお客様ニーズに確実に応えながら、時代に合ったテクノロジーソリューションで、脱炭素化を進めていく考えです。
私たちは日々、食料生産とエネルギー変換の分野で、新しい豊かさをつくることを目指して活動しています。この新しい豊かさとは、人の豊かさと自然の豊かさの両立です。この2つが両立できるところに知恵を絞っていく。その知恵こそが、ヤンマーのテクノロジーです。
私達が提供する製品群で、お客様の環境負荷低減に貢献し、気候変動課題に対応する。それと同時に、特に日本の労働力不足の解消や、第1次産業の過酷な作業環境で働く方々に寄り添えるよう、電動化、省エネ、自動化など、新しいソリューションの提供にも力を入れています。
■技術ソリューションで農業をよりサステナブルに
――2025年6月に、未来の農地を守るプロジェクトを発表しました。その概要やそこへの思いを聞かせて下さい。
白藤:未来の農地を守るプロジェクト「SAVE THE FARMS by YANMAR」は、ヤンマーの技術を集結して耕作放棄地の増加を防ぎ、サステナブルな農業の実現を目指す、新しいソリューションです。
営農型太陽光発電や電動農機、もみ殻バイオ炭、バイオ式コンポスターなど、当社の持つさまざまなテクノロジーや事業を、それぞれの地域で組み合わせて運用することで、食料やエネルギーの地産地消のエコシステムを実現できると考えています。
プロジェクトの第1弾として、環境再生型農業と営農型太陽光発電を組み合わせたソリューションを、滋賀県栗東市と岡山県岡山市の農場で展開し始めました。脱炭素に寄与する農法を確立しながら、食料の資源循環を進めると同時に、営農型太陽光発電でグリーン電力の安定的な供給も行います。30年度には全国で1000ヘクタールの展開を目指します。
プロジェクトを始める2拠点のうち、栗東は、特例子会社のヤンマーシンビオシスとの関わりも深い地域です。
同社は野菜の栽培や花苗の生産などの農業も行っています。地域の皆様に支えられながら、農業人材が育ち、2024年から収穫体験のできる観光農園事業も始まるなど、事業も育てることができました。地域の皆様には感謝しかありません。
ヤンマーシンビオシスでの仕事を通じて、私も地域や農家の方々の思いを直接感じ取ってきました。高齢化の深刻さ、後継者不足、それでも「農地を守りたい」という強い思いに応えられるよう、ヤンマーとして、このプロジェクトを絶対に成功させたいとの強い気持ちがあります。地域の皆様への感謝の気持ちを、恩返しするチャンスにしていきます。

「SYMBIOSIS FARM by YANMAR」
(c) ヤンマーホールディングス

